90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の神経科学に関する論文集vol.3

Newborns' Cry Melody Is Shaped by Their Native Language.
Curr Biol. 2009 Nov 4. [Epub ahead of print]
Mampe B, Friederici AD, Christophe A, Wermke K.


赤ちゃんは母親のお腹にいる頃から外界の音を聴いていると言われますが、その頃から
すでに音楽や言葉に対する反応が見られるそうです。また生まれてすぐの頃にはもう
母親の声をほかの声と区別していたり声の感情的な起伏に対する反応も見られるようです。
これらは言葉のメロディックな変化(音程の上下動)を頼りに行っていると考えられており、
もしこうした入力の違いを感じ取っているのなら、この違いが赤ちゃんの出力(発声)にも
なんらかの影響を与えているのではないか、というのがこの研究の目的です。


実験ではフランス人の赤ちゃんとドイツ人の赤ちゃんの泣き声を、その音程の上下動と
強弱について分析したところ、フランス人の赤ちゃんは上昇音形で、またドイツ人の
赤ちゃんは下降音形で泣く傾向が見られたということです。この結果は周囲にある音の
環境に依存した形で赤ちゃんの音声学習が行われる、という事を示唆しています。


うーん、フランス語とドイツ語ってそんなに大きく違うんでしょうか。確かに音声入力の
時点で違いがあれば、それをもとにした音声学習の方にも影響が見られるというのは
わかるんですが、隣同士の国でそこまで違いが出るものかと… もう少し色々な国の
言葉で比較をしないと本当かどうかわからないですね。




Global view of the mechanisms of improved learning and memory capability in mice with music-exposure by microarray.
Brain Res Bull. 2009 Aug 28;80(1-2):36-44. Epub 2009 May 30.
Meng B, Zhu S, Li S, Zeng Q, Mei B.


音楽がパフォーマンスに影響を与えるといえばモーツァルト効果が思い出されますが、
それに関連した遺伝子があるという報告があるらしいです(本当かなぁ)。
で、この論文ではマウスにクラシック音楽を1ヶ月間聴かせたところ、聴かせなかった
マウスと比べてその後の空間学習テストと恐怖条件付けテストでの成績が高かったそうです。
そしてこれらのマウスで海馬と大脳皮質における遺伝子発現を調べたところ、400以上の
遺伝子に違いが見つかったということです。これらのほとんどは細胞のイオンチャンネルや
シナプス伝達、ホルモン分泌などに関連した遺伝子で、著者たちは音楽が学習や記憶に
与える影響をより理解するためのヒントになるのではないかと結論づけています。


1ヶ月間も音刺激を聞かせ続けていたら、そりゃ音の処理をする脳部位に何か変化が見られる
でしょう。遺伝子発現に見られた違いは単にそれを反映しているだけという可能性も充分に
考えられます。まあ本当にモーツァルト効果があるのか、という事は気になりますが、
どうせならクラシック音楽だけでなくほかのジャンルも調べればいいのに、と思うのですが。
ヘビメタとかデスメタルを聞かせても成績がよくなるとしたら色々とまずいんでしょうか。