90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

「日本の科学は世界を目指さない」という方向性が示された、という事でしょうか。

さて、気になる13日の事業仕分け結果が昨日出たわけですが、たくさんのブログが
コメントしており、注目度の高さが伺えます。


13日の仕分け結果の詳報(47ニュース)


しかしその多くは「人民裁判だ」とか「日本オワタ\(^o^)/」と、感情的に批判して
いるのが目に付きます。そんな中、タケルンバ卿日記さんでは比較的冷静にいくつかの
ポイントを挙げて事業仕分けについての批判や問題点をまとめています。


前半は「仕分け人の資格」や「議論の時間・シンプルさ」などについて書かれており、
この会議における問題について簡単に知るためには良いのではないでしょうか。
後半は「仕分けを行っている政府を批判する人が多いけど、この状況を引き起こした
自民党の責任も大きいんじゃないの」という主張で、これは私も同感ですが、
とりあえず犯人探しをしても現状は変わらないのでそこはスルー。


それよりもやはり研究者としては、基礎研究費も予算削減すべきという仕分け会議の
結論について少し考えてみたいと思います。


まだ実際の予算編成までに変わる可能性も残されてはいますが、国から「あなた達は
役立たず」と言われたようで、かなりヘコみますね。スパコンについては予算計上
見送りに近い削減となっており、野依さんも怒っています。日本科学未来館についても
毛利さんがその意義を主張したものの結局予算削減となりました。


研究者として思うことは大脳「洋」航海記さんこのエントリが全て語っています。
私がまずいと思っているのは、この事業仕分けが今年1年だけのイベントではない
だろうという事です。来年末になれば次年度予算についてまた仕分けが行われ、
ムダな事業が削減されるはずで、一度削減された項目はまた次の年も標的にされる
可能性が高いと思われます。もし研究費がそうなってしまったら、研究者の
モチベーションは落ちるし、脱落する研究者も増えるでしょう。それを見た学生も、
研究者になるより就職を選ぶようになるでしょう。皮肉なのは、「いい研究」が
少ないからと言って研究費をカットすれば、その数少ない「いい研究」をしている
研究者から日本を離れていく、という事です。優秀な研究者であれば海外から声が
かかることも多いでしょうが、その時に「やっぱり日本がいい」と彼らに思わせる
要因を日本は自らつぶしていっているのです。


そして誰もいなくなった」後、日本の科学研究はどうなるのでしょう。
その昔、日本は「基礎研究ただ乗り」と海外から批判されたことがありましたが、
再びそういう状況になるのは火を見るよりも明らかです。

ボク「カナダは戦争をしないんだから、軍隊をなくせ、という意見はどう思う?」
中尉「なくしてもかまわないと思う。私は失業するけどね」
ボク「じゃあ、なぜカナダは軍隊をなくさないの」
中尉「軍隊は、一度廃止すると、再構築に10年かかる。ふだんは廃止していて、
   有事にすぐにつくることはできない。万が一、紛争になったときに、敵が
   10年待ってくれるなら話は別だがね」


科学技術の話もこれに似た側面がある。ある技術の開発を打ち切ると、
再開してから何年も世界の最先端に追いつくことはできなくなってしまう。


資源のない日本が、これまで世界と伍してやってこられたのには訳がある。
科学技術で世界に遅れをとって、どこに活路を見いだすというのか。


「理解不能」より(薫日記)


まさにその通りだと思います。秒進分歩の速さで進む研究の世界でブレーキを
かけてしまえば、その後世界に追いつくためには今ここで削減した額以上の
お金が必要になります。せっかく最近のCOEやグローバルCOEなど世界的な
拠点を作ろうという動きがあった中でそれを止めてしまう、これこそが本当の
ムダではないでしょうか。


さらに、ブレーキをかけている間に海外で得られた研究成果で特許を取られて
しまったら、その特許を使うためにどれだけのムダなお金を払わなければ
いけなくなるのでしょうか。事業仕分けを行った委員たちに果たしてそこまでの
考えがあったでしょうか。「2位ではダメなのか」や「一時的に1位になる意味は」
などという発言が起こるようでは、推して知るべし、といったところですが。


しかし、厳しい財政の中では科学研究だけを「聖域」にはできないという意見も
あるでしょう。確かに、研究費に関してもムダはないか調べる事は重要ですが、
それにかけた時間はわずか1時間、しかも「聖域なく事業の見直しを行う」(PDF)
といいながら、国の事業のうちわずか15%しか対象になっていないというのは
どういう事なのでしょうか。残りの85%にムダはないのか、そもそもどういう基準で
仕分け項目が選ばれたのか、これらを明らかにしないままに短期間で切りやすい項目
だけを衆人環視の下で切り捨てていくという手法には、本当に国の財政を思ってという
よりも、政治的なアピールという印象しか受けません。


この一連の仕分け作業は11月で終了し、12月のうちには予算を決定するという
スケジュールのようです(PDF)。おそらくその隙間に、関係機関は財務省と折衝をして
削減額の変更などをするのだと思いますが、その時には素人的な「よくわかんない
からムダ」みたいな発想はしないで、将来を考えた予算配分に落ち着く事を祈って
おります。まだ今なら引き返せるところにいるんですから。