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90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.27

Music as a Memory Enhancer in Patients with Alzheimer's Disease.
Neuropsychologia. 2010 May 6. [Epub ahead of print]
Simmons-Stern NR, Budson AE, Ally BA.


学生時代に元素周期や年号を語呂合わせや歌にして暗記した、という経験は
誰もが持っているのではないでしょうか。普通に覚えるのは大変なものでも、
歌として覚えてしまえば不思議とすんなり頭に入ったものです。


アルツハイマー型の認知症は認知機能の低下と記憶障害が主な症状の一つと
して知られていますが、音楽処理の能力は意外と保たれているそうで、
音楽を利用すればアルツハイマー患者の記憶を改善する事ができるのではと
いう事を調べたのがこの研究です。


歌に乗せて提示した文章と単に読み上げて提示した文章を記憶させて、その後
再認テストを行ったところ、健常者の成績に違いは見られませんでしたが、
アルツハイマー患者は歌に乗せた文章の方が高い再認成績を示しました。


この結果は、同時に聴かせた音楽が患者における文章の記憶をより強いものに
したか、あるいは音楽が患者の覚醒状態や注意力を向上させた、という可能性が
考えられるということです。




Functional specializations for music processing in the human newborn brain.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Mar 9;107(10):4758-63. Epub 2010 Feb 22.
Perani D, Saccuman MC, Scifo P, Spada D, Andreolli G, Rovelli R, Baldoli C, Koelsch S.


先日レビューしたように、言語は左半球優位で音楽は右半球優位という傾向が
多くの研究で報告されています。しかしほとんどの研究は大人を対象としたもので、
この左右差は我々が生まれつき持つ特徴なのか、それとも成長する間に学習により
獲得されるのかはまだ分かっていません。


そこでこの研究では、生後1〜3日(!)の幼児を対象に、fMRIを用いて
メロディに対する脳活動を測定しました。普通のメロディに対しては特に
聴覚野周辺で右半球優位な活動が見られた一方、メロディの途中で調性を
半音ずらして作った奇妙なメロディには右半球の活動が減少し、代わりに
左半球、特にInferior frontal cortexとLimbic structureに活動が見られました。


ということで、音楽に対する右半球優位な脳活動というのは生得的なものらしい、
という結果となりました。しかも生後すぐでも調性の変化に反応できることも
分かりました。


しかし、生後数日の幼児を18人もよくぞ集められたものです。
「the procedures approved by the Ethical Committee of the San Raffaele
Scientific Institute and by the Ethics Review Board of the New and
Emerging Science and Technology (NEST) project in the Sixth Framework
Program (FP6) of the European Union.」と論文には書かれており、倫理委員会の
審査も通しているようです。すべての幼児がスキャン中のほとんどは眠っており、
そわそわとしているようであればスキャンはすぐに停止した、という事なんですが、
うーん… 日本ではまず出来ない研究でしょうね。