90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.29

Neuroarchitecture of verbal and tonal working memory in nonmusicians and musicians.
Hum Brain Mapp. 2010 Jun 9. [Epub ahead of print]
Schulze K, Zysset S, Mueller K, Friederici AD, Koelsch S.


ワーキングメモリといえば、視覚的な情報を貯める視空間スケッチパッドと聴覚的な
情報を貯める音韻ループ、それらをコントロールする中央実行系からなる人間の
記憶システムについての仮説ですが、視覚的なワーキングメモリについての研究は
星の数ほどあれど、比較的聴覚については知られていないような気がします。


この研究では、聴覚のワーキングメモリに関して言語と音楽(正確には音高?)とで
違うメカニズムがあるのではないか、ということをfMRIで調べたところ、音楽家も
非音楽家も言語と音楽で活動が見られた領域はほとんどかぶっていたようですが、
それに加えて音楽家では言語で右側のinsular cortex、音楽で右側のglobus pallidus、
caudate nucleus、左側のcerebellumに違いが見られました。


この結果からは、音楽家では言語と音楽で異なるワーキングメモリのメカニズムが
あるっぽいということが考えられます。


Pechmann(1992)では、2音の音高弁別課題において音の間に妨害刺激を加えたときの
成績の変化を見たところ、音楽経験者は言語や視覚的な妨害刺激に影響を受けず、
音の妨害の効果だけが見られた一方、非経験者は言語や視覚的な妨害の効果も
見られました。


この研究も踏まえると、音楽家では言語と音楽でワーキングメモリのメカニズムが少し
違うというのもあり得るのではないでしょうか。Schulzeたちの解釈では言語は音韻ループで
音楽は音楽のループで処理されるとなっていますが、絶対音感を持つ人たちだと
音韻ループと音楽のループの両方が活性化するんでしょうか?


というか、Wikipediaでワーキングメモリの項目を読んでみたら、知らない間に
Baddeleyのモデルが進化していてビックリ。



Why do we listen to music? A uses and gratifications analysis.
Br J Psychol. 2010 Jun 7. [Epub ahead of print]
Lonsdale AJ, North AC.


我々が音楽を聴く理由とそれが年齢によって違うのかを、(たぶん)質問紙のような形で
調べた研究です。音楽を聴く理由は当然人によってバラバラなわけですが、大まかに言うと
気分をコントロールするためというのが一番の理由のようです。そして年齢によって
音楽を聴く理由も変わってくるらしいです。


ちょっと変わった雰囲気の研究ですが、意外と面白そうかも…