90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.39

Music-evoked nostalgia: affect, memory, and personality.
Emotion. 2010 Jun;10(3):390-403.
Barrett FS, Grimm KJ, Robins RW, Wildschut T, Sedikides C, Janata P.


音楽を聴くことで生じる感情は楽しさや悲しさ、高揚感などなどたくさんありますが、
郷愁を感じる音楽について調べたのがこの研究です。郷愁感の感じやすさと個人の
パーソナリティには関連性があった模様で、ビッグファイブやAffective Neurosciences
Parsonality Scaleなどといった性格検査の成績から予想できるようです。


うーん、そうですねぇ…




The minor third communicates sadness in speech, mirroring its use in music.
Emotion. 2010 Jun;10(3):335-48.
Curtis ME, Bharucha JJ.


メジャーの和音から根音の一つ上の音程を長3度から短3度に下げただけで、
明るい感じだった音がとたんに悲しい感じのマイナーな和音に変わります。
これと同じような事が音声でも起きている、という事を示した論文です。


4つの異なる感情を込めた文章を俳優に話してもらい、その音声を音響的に
分析したところ、悲しい調子では短3度の音程変化が多く見られたそうです。


著者のCurtis博士は以前マックスプランクでトークをした事があって、ちょうど
この話を聞きました。悲しい音声で短3度の変化がよく見られただけでなく、
その音声の音程変化を取り出してメロディとして聞かせたところ、悲しいメロディ
と評価される傾向があったとか。あとは、ランダムな音程だか何らかの規則を
持ってだか作られたスケール(12音技法みたいなもの?)をいくつか作り、
その音階を聞かせて感情的な評価をさせたところ、音程に短3度が含まれる
音階は悲しいと評価される傾向があったとか(うろ覚えですが…)


音声か音楽かに関わらず、短3度の音程は悲しいという感情を刺激するみたいです。
う〜む、不思議です。




Rhythm synchronization performance and auditory working memory in early- and late-trained musicians.
Exp Brain Res. 2010 Jul;204(1):91-101. Epub 2010 May 28.
Bailey JA, Penhune VB.


実験で音楽経験者を募集するときに気をつけないといけないのは、例えば
3歳からピアノを習い始めたけど中学で止めた大学生とか、高校から楽器を
始めた音大生とかの微妙な経歴の持ち主です(笑)


いくつかの研究では、音楽経験の長さよりも何歳から始めたかが重要な
ファクターになるという事が言われています。この論文では、7歳になる前から
音楽を始めた人(early-trained: ET)とそれより遅くから音楽を始めた人
(late-trained: LT)を対象にして、音にタイミングを合わせる能力のほか、
ワーキングメモリーやボキャブラリーなどのその他認知能力における違いを
調べました。音に合わせたタッピング課題では、ETの方が複雑なリズムでも
正確なタッピングができる傾向が見られましたが、その他の認知能力では
ETとLTの違いは見られませんでした。


音楽教育を早くから始めると、音楽に関連した能力は向上するけれども
その他一般的な認知能力はそれほど影響を受けない、という事でしょうか。




Sensorimotor adaptation is influenced by background music.
Exp Brain Res. 2010 Jun;203(4):737-41. Epub 2010 May 18.
Bock O.


モーツァルト効果については賛否両論未だに分かれていますが、
その効果を調べた研究のほとんどはペーパーテストとかの認知課題です。
それでは認知能力にはあまり関係がなさそうな課題でモーツァルト効果が
見られるだろうかというのを調べた論文です。


参加者を3グループに分け、それぞれ落ち着いた音楽、悲しい音楽、
何でもない音楽を聴かせながら視覚刺激に対するポインティング課題
を行わせたところ、どのグループも成績は良くなっていったんですが
落ち着いた音楽を聴かせたグループが一番早く成績の向上が見られ、
視覚に基づいた運動のコントロールという、あまり認知機能とは関係が
なさそうな課題においてもモーツァルト効果が見られた、という結果に
なりました。