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90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.40

Incidental and online learning of melodic structure.
Conscious Cogn. 2010 Sep 8. [Epub ahead of print]
Rohrmeier M, Rebuschat P, Cross I.


我々は日常とても多くの種類の音楽を耳にする機会があります。
覚えようとしていたわけじゃないのに気がついたら一曲全部覚えていた、と
いう経験のある人もいると思いますが、こうした無意識的な音楽の学習
について調べたのがこの論文です。


面白いのは、すでに獲得されているであろう既存の音楽に対する知識の
影響を除くために、新たな和声構造を持つ音楽を刺激として作ったという
ところです。言語の研究では、人工的に作られた言語を用いて文法構造の
学習過程を調べたりしますが、その音楽版といったところでしょうか。


具体的な実験方法はアブストラクトからは分かりませんが、この新規な音楽の
構造を学習するのに音楽経験が有利に働くことはなかったようです。




Cognitive vs. affective listening modes and judgments of music-An ERP study.
Biol Psychol. 2010 Sep 10. [Epub ahead of print]
Elvira B, Thomas J, Wouter DB, Enrico G, Mari T.


言語における文法構造のように、音楽にも和声構造があります。
この構造についてはミスマッチ反応を用いて多くの研究が行われていますが、
ミスマッチ反応を生じさせるためには、実験中に音に注意を向けないように
しないといけません。というのも、音に注意を向けてしまうとその影響を考慮
しなければいけなくなるからです。


というわけで、多くの研究では注意などのトップダウン的な影響を排除しながら
音楽の和声構造処理に関わる神経メカニズムが調べられてきたわけですが、
では注意(というか聴き方)の影響を調べてみようというのがこの論文です。


実験では和音の音列の最後だけ変化させて、正しい形、ちょっと変だけど
あり得る形、全くありえない形の3種類の終止形を作って参加者に聞かせました。
そして、和声の間違いを評価するときと音列の好き嫌いを評価させるときの
ERPをそれぞれ測定したところ、刺激終了後1200ms付近で、評価方法の違い
による波形の違いが見られました。


単純に考えると、和声の正しさという認知的な評価では前頭葉が、好き嫌いの
評価ではamygdalaなどの関与を反映しているという事になるのでしょうか。
それぞれの脳内処理過程がどこまで共通していて、どこから違ってくるのか
興味深いところです。




Control of multi-joint arm movements for the manipulation of touch in keystroke by expert pianists.
BMC Neurosci. 2010 Jul 14;11:82.
Furuya S, Altenmueller E, Katayose H, Kinoshita H.


さてさて、日本人著者の登場です。この方、ピアニストが演奏する際の
腕の筋肉の動きに注目した論文をいくつか発表されていますが、
今回は音色の違いをもたらす腕の使い方についてです。


pressed(鍵盤を"押す"動きで柔らかい音が出る?)とstruck(鍵盤を"叩く"
動きで硬い音が出る?)という2種類の弾き方において、肩から指にかけての
筋肉の使い方を調べたところ、それぞれの部位における伸筋と屈筋の使い方
にはかなり違いが見られたようです。


また、こうした筋肉の使い方の違いによってpressedの方がstruckよりも
より柔らかい音を出すことができるという事が、二つの弾き方の音色を
評価させる実験によって示されています。


相変わらず面白い実験です。実際にピアノのレッスンでは音色の弾き分けを
どうやって教えるのでしょうか。「こんな感じでフワッと押すんだよ」とか
「ダーン!じゃなくてバーン!と弾くんだよ」という感じで感覚的に教えている
場合が多いんじゃないかと思うんですが、こうした研究が進めばもっと
理論的にキチンと教えることが出来るようになりそうですね。