90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.41

Role of auditory feedback in the control of successive keystrokes during piano playing.
Exp Brain Res. 2010 Jul;204(2):223-37. Epub 2010 Jun 3.
Furuya S, Soechting JF.


前回紹介したばかりですが、また同じ日本の方の論文です。
むむむ、いつの間にアメリカへ。


この研究ではピアニストを対象に、ピアノ演奏時の聴覚的なフィードバックを
あれこれいじって、演奏にどのような影響を与えるかを調べました。


音程・音の大きさ・音が聴こえるタイミングをそれぞれずらし、それらが
弾き方にどのような影響を与えるかを調べたところ、音の聴こえるタイミング
を遅らせると次の音を弾くタイミングが早くなる(正しいタイミングよりも
早いという事でしょうか?)という傾向が見られました。また、音程や
音のタイミングをずらした場合には鍵盤を叩く力が増加した一方、
音の大きさをずらした場合には増加したり減少したりとまちまちでした。


面白いのは、右手で弾く音をいじるとその影響は左手の出す音にも現れた
というところで、ピアノ演奏時にどのように指を動かすかというプラン作りに
おいて、左はこう動いて右はこう動く、という様に左右バラバラになっている
のではなく、左右を合わせてひとつの動きと見ていることを示唆するようです。


また、ピッチをずらすとミスタッチが多くなるという結果も得られており、
ピッチ情報のフィードバックが正確な演奏に重要であると思われます。


ピッチに関しては、低い音は左側で高い音は右側といったピッチ空間という
イメージ的なものが存在することが知られており、この論文でミスタッチが
増えたのはそのイメージが狂ったからと思ったのですが、ピッチを低くずらす
場合と高くずらす場合でミスタッチの傾向に何か違いは見られたのでしょうか。




Processing expectancy violations during music performance and perception: an ERP study.
J Cogn Neurosci. 2010 Oct;22(10):2401-13.
Maidhof C, Vavatzanidis N, Prinz W, Rieger M, Koelsch S.


上の論文と同じようなことをしている論文なんですが、ピアノ演奏中に
音のフィードバックを変化させた場合と、単純にピアノ演奏を聴いている
途中で違う音を聴かせた場合で、ミスマッチ反応(MMN)を比べてみた
というもので、両条件ともにミスマッチ反応が測定されたんですが、
ピアノを演奏していたときの方が大きかった、という結果になりました。


単純に聴いているときよりも、演奏中の方が音に対してより強い期待を持って
聴いているからだという解釈ですが、音楽的な知識による次の音への期待感
に加えて演奏中の聴覚的なフィードバックに対する期待感がある分、そりゃ
期待度は高くなるよなぁという感じです。




Differences in electric brain responses to melodies and chords.
J Cogn Neurosci. 2010 Oct;22(10):2251-62.
Koelsch S, Jentschke S.


Koelschさんの論文ということで、課題はいつものアレです。
和音の音列を使ったミスマッチ反応に加えて、今回はその和音の一番上の
音を取り出してメロディとし、それに対するミスマッチ反応を見ることで
メロディvs和音の処理を比較した、という論文です。


どちらの条件もミスマッチ反応が見られましたが、メロディの方は刺激呈示後
125ms付近でピークを迎えたものの、和音のピークは180ms付近で見られ、
メロディと和音の処理は異なる可能性が示されました。


ミスマッチ反応は課題が難しいほど小さく、また遅い時間に生じる傾向があり、
今回の結果も単にメロディ(単音)と和音の認知における難しさを反映しただけ
じゃないのと思いましたが、結果の図を見てみるとそうでもないみたいで、
へーなるほどという感じです。MEGでそれぞれの発生源推定をすると面白そう。