90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.45

Interplay between affect and arousal in recognition memory.
PLoS One. 2010 Jul 23;5(7):e11739.
Greene CM, Bahri P, Soto D.


感情的な状態が再認課題を行うのにどう影響を与えるかを調べた論文です。
抽象的な図形を学習させた後で、音楽を使って参加者の感情的な状態
(arousalとmood)をそれぞれhigh/lowとpositive/negativeの状態にして、
その後の再認テストの成績を見ました。


その結果、arousalもmoodもプラスの場合、あるいはどちらもマイナスの場合
の方が、どちらかがプラスの場合より再認成績が良いという結果になり、
これらの要素は独立というよりも相互作用的に働くことを示していそうです。


なんかモーツァルト効果の背景に見られそうな影響ですねぇ…。




Hearing it again and again: on-line subcortical plasticity in humans.
PLoS One. 2010 Oct 26;5(10):e13645.
Skoe E, Kraus N.


ABR(聴覚脳幹反応)を用いて脳幹部における音への反応を調べているラボからの
論文です。以前には音楽家と非音楽家の反応の大きさを比べた論文などを出して
いますが、今回は1時間半という短い時間でも音に対するABRが大きくなることを
報告しています。


実験では、5音のメロディ(E3-E3-G#3-B3-E4:最初の2つは同じ音)に対するABRを
1時間半に渡って(!)測定し、刺激の周波数に依存した反応(Frequency Following
Response:FFR)の大きさを実験の前半と後半で比較しました。


もともとこの実験はmissing fundamentalについての実験であったらしく、
そのため刺激は倍音のみで構成されており、基本周波数(F0)はありません。
それでもF0に対するFFRも見られました。


実験の前半と後半でのFFRの大きさを比較すると、F0には変化が見られなかった
ものの、第一倍音へのFFRは後半で増加していました。さらに、メロディ中で
繰り返される音(E3)に対する反応はその中でもさらに増加していました。


で、結論としてはメロディの繰り返し(global repetition)によるFFRの増加と、
メロディの中のある音の繰り返し(local repetition)によるFFRの増加の二つが
見られた、という事になるんですが、好きなムービーを見せて飽きさせないように
しているとはいえ、1時間半も同じ刺激を延々と聞き続けるというのはなかなか
しんどい実験ですね…