90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.047

もうすっかり遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。
この年末年始は特に出かけることもなく、実験の分析をしていました。
大晦日にはゲヴァントハウスのジルベスターコンサートに行ってきましたが、
小ホールだったのでこじんまりとした感じで新年に突入しました。


さて、楽しい楽しいライプツィヒ生活も残り数ヶ月となったわけなんですが、
この時期は論文書いたりデータ分析したり就職活動したりとけっこう忙しく、
あまりこちらに気持ちを向ける余裕がありません…
ですが、これまでより間隔が空いても、ちまちまと更新していきたいと
思うので、このブログを読んでくださる奇特な(笑)方々においては、
これからも生暖かい目で見守っていただければうれしいです。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m


それでは早速2011年最初の論文はこちら。


Finding your voice: A singing lesson from functional imaging.
Hum Brain Mapp. 2010 Dec 15. [Epub ahead of print]
Wilson SJ, Abbott DF, Lusher D, Gentle EC, Jackson GD.


歌を歌う(歌唱)という行為は、ひょっとすると音楽に関わる行動の中で
もっとも我々の身近にあるものだと思うのですが、あまり研究の数は多く
ないような印象があります。とはいえ、歌唱は単純な言語の発話とは異なる
脳活動を示すという報告はいくつか見られるようです。


この研究では、歌の上手下手によってこの歌唱に関与する脳部位の活動に
違いが見られるのではないか、という事をfMRIを使って調べました。
歌と発話の2つの条件でそれぞれ声に出さず心の中で課題を行ってもらい
fMRIで脳活動を見たところ、2つの条件は似たような活動パターンを示した
のですが、歌の経験が少ない人の方が類似性は高く、歌の経験が多い人では
歌の条件で前頭葉(特に右半球)の活動が低くなる傾向が見られたという
事です。どうやら、発話と歌唱で同じように言語的な情報が含まれていても
歌の訓練を積むことによってそれらは別々の物として処理されるように
なっていくみたいです。




Testing meter, rhythm, and tempo discriminations in pigeons.
Behav Processes. 2010 Oct;85(2):99-110. Epub 2010 Jun 30.
Hagmann CE, Cook RG.


音楽に合わせて踊るオウムを以前に紹介しましたが、この論文では
ハトを用いて、リズムや拍子といった音の時間的な情報の弁別能力を
調べました。


条件付けの実験を4つ行っているのですが、苦労したにも関わらず結果は
否定的なものでした。キックドラムとスネアドラムの音色を刺激として
拍子の弁別を行わせても学習できず、シンバルとタムタムの音色を使ったら
ようやく3/4と8/4が弁別できるようになりました。また、キックとスネアの
音色で一定のビート/ランダムな間隔のビートを弁別させてもうまくいかず、
テンポの弁別ではなんとか2匹は学習が出来たという程度。


こういう結果でも論文になるんだという意外性の方がのデータの意外性より
大きかったのですが、これまた以前紹介した記事では和音の弁別ができて
いることから、別に聴覚能力が低いわけではなさそうです。
時間的な情報を認識する能力が低いのか、あるいは実験で使った刺激の
種類が悪かったのかもしれません。