90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音痴の神経メカニズムを探る。

The Neuroscience of Tone Deafness
(Scientific Americanより)


音痴の研究といえばIzabelle Peretzさんですが有名ですが、彼女が
音痴の神経メカニズムに迫った研究を紹介した記事で、人の顔が
覚えられなくなる相貌失認という症状と似たようなメカニズムが
見られるというお話です。


そういえば、知り合いにビックリするほど歌がうまい人がいますが、
ビックリするほど歌が下手な人はいないなぁと気がつきました。
もっとも、そういう人はカラオケに行っても歌いたがらないから、
その人が音痴かどうかは分からないわけなんですが。


それはともかく、ある程度のレベルであれば音痴な人はそこそこ身近に
いると思うのですが、自分でも音痴だと気がつかなかったり、そもそも
メロディを覚えていられないほど深刻な音痴は"amusia"(失音楽症)と
呼ばれます。


この失音楽症の神経メカニズムを調べた実験では、失音楽症患者と
健常者を対象として、メロディのピッチを突然ずらすことで生じる特別な
脳活動(ミスマッチ反応)を脳波計で測定しました。するとミスマッチ反応
はどちらのグループでも見られた一方、健常者はその後にP600と呼ばれる
別の活動が見られましたが、患者にはそれが見られませんでした。


この結果と、これまでに得られた失音楽症患者の脳の解剖学的な違いから、
どうやら失音楽症の人はごく初期の情報処理のレベルでは音の違いを
しっかり知覚しているものの、それを認識するための高次脳機能に問題が
あるという可能性が示されました。


で、これと似たような結果が相貌失認の患者さんでも見られるそうです。
またどちらも脳障害によって引き起こされる場合と、先天的にそうした症状
を持って生まれてくる場合とがあり、先天的に持つ割合は相貌失認で2.5%、
失音楽症で4%だそうです。


兄弟や子供など一親等内の親族に複数の患者が出現する割合も高いことから
遺伝的な要因も言われていますが、これらの症状を引き起こしているのは
特定の脳部位の障害というよりも、部位間をつなぐ連絡が絶たれているため
ではないか、ということが考えられています。