音楽の脳科学に関する論文集 vol.55
もはや月一更新となっているブログですが、がんばっていきますよ。
先週は横浜で行われた神経科学学会でポスター発表をしてきました。
人だかりができるほどの人気はありませんでしたが、興味を持っていただけた
(であろう)人がパラパラと足を運んできてくださったのでうれしかったです。
ポスターは音楽関連なのにカテゴリーは社会行動、そして発表は最終日という
よく分からないことになってましたが、聞きに来てくださった方々には感謝です。
さて、今回ご紹介する論文はこちらの3本です。
Neurofunctional and Behavioral Correlates of Phonetic and Temporal Categorization in Musically Trained and Untrained Subjects.
Cereb Cortex. 2011 Jun 16. [Epub ahead of print]
Elmer S, Meyer M, Jaencke L.
Planum Temporale(PT)は、音楽経験により機能的・構造的な変化が見られる
部位としてよく報告されています。またこの部位は言語の処理に関係している
部位でもあります。そこで、音楽経験でみられる変化は言語の処理にも影響を
与えるのではないか、という議論はよく起こります。
この研究ではプロの音楽家と一般人を対象に、「ka」「da」の音声とそれらの
スペクトルをいじって作った「wnka」と「wnda」という合成音声の弁別課題を
行っている最中の脳活動をfMRIで測定しました。どちらの被験者グループも
音声の弁別成績は良かったですが、合成音声では音楽家の方が一般人よりも
良い成績を示しました。またfMRIの結果からは、音楽家の方がleft PTの活動が
大きいことが分かりました。
PTの活動と音楽経験の量や課題の正答率との相関係数は小さかったり、図2を
図1と文中で示していたりとうっかりミスもあったりしますが、音楽経験により
言語処理、特に素早い音の変化に対する感受性が高まるという事が示唆される
結果となっています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21857031
Neural basis of music knowledge: evidence from the dementias
Brain. 2011 Sep;134(Pt 9):2523-34. Epub 2011 Aug 21
Hsieh S, Hornberger M, Piguet O, Hodges JR.
Semantic Dementia(意味性認知症)とは、言葉や物の意味が分からなくなる
のを特徴とする認知症のひとつです。おそらくは意味記憶が失われることから
ついた病名だと思われますが、犬の鳴き声を犬だと分からなくなったりと、
言葉だけでなく音に関連した記憶も失われていくそうです。そこで、こうした
患者さんからは音楽の記憶も同じように失われてしまうのかを調べたのが
この研究です。
調べてみるとやはり有名な音楽についても覚えていないことがわかり、また
忘れている度合は右半球のTemporal Poleの萎縮の度合と相関が見られる
ことがわかりました。この部位は日常で聞くことのあるような音の認知とは
関連が見られない場所で、むしろ顔認知に関連していることが知られています。
このことから、音楽と顔認知にはなんらかの関係性があるのかもしれません。
Wolfgang Amadeus Mozart--controversies regarding his illnesses and death: a bibliographic review.
Med Probl Perform Art. 2010 Jun;25(2):49-53.
Dawson WJ.
モーツァルトの死因についてはあれこれ議論がありますが、それらを調べた研究
のレビュー(!)です。Performing Arts Medical Association(PAMA)という
組織の書誌目録を探したら136件見つかり、そのうち81件は著者に接触して
論文をもらえたということで、割とマジメに調べたもののようです。
モーツァルトの死因や彼の病気について情報を集めたということらしいですが、
果たして死の真相は…