90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

ブログ移行のお知らせ

年単位で更新をしなくなってしまったので、思い切ってこのブログは閉じて自分のHPにくっつけようと思います。身バレしてしまいますが(もうほぼバレてますかね…)そうすればきっと更新頻度も上がるはず!

 

cellonoken.wixsite.com

 

このブログはこのまま残しておきますが、時間の余裕があれば新しい方に記事をコピーしていきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

帰ってきた人柱的文献管理ソフト探索紀行 vol.2

さて、これまで人柱的文献検索として色々な文献管理ソフトを見てきましたが、やはりEndnote, Mendeley, ReadCubeが御三家と呼んでもよいのではないでしょうか。その後Endnoteの試用版を使ってみて自分の中ではある程度結論が出たので、3つのソフトについて使ってみた感想と良し悪しについてまとめてみました。

 

大まかに比べるとこんな感じです。

 

        EndNote  Mendeley  ReadCube
クラウド容量  無制限   2GB    無制限
他PCとの同期   可     不可    可
論文のタグ付け 可     可     可(有料)
メタデータ取込 可     可     可

 

そして、個別に気づいた点を挙げていきますと…

 

Endnote

良い点としては、読んでない論文が太字で表示されるのでわかりやすいのと、読んだ論文を星5つで評価することができることでしょうか。WindowsiPadで同期させても特に問題は見られなかったです。iPadでも同じように使えました。

悪い点は、タグの予測入力がないので長いタグ名は間違いやすいこと、そして論文のインポートがドラッグ&ドロップではできず、一つずつfile → importで行うのが面倒でした。また、複数の論文を同時に開けるものの、タブ機能がないのでウィンドウがどこにいったかわからなくなるというのがどうも。そして、デザインがWindows風でどうにも味気ないのは仕方がないのでしょうかね。そして、こりゃあかんと思ったのは、論文中にハイライトをつけるとPDFに直接入力されてしまうので、AcrobatReaderなどでPDFを開いてもハイライトがついたままという… 当然印刷してもハイライト付きでした。

 

Mendeley

良い点は、タグの予測入力ができるところです。うろ覚えとか長いタグ名も最初の数文字打てば候補がリストで出てくるのが私にとっては非常に使いやすいです。また、複数の論文を同時に開いてもタブで切り替えやすいし、何を開いているかがわかりやすいのがいいですね。

悪い点としては、ipad版ではタグが出てこないので検索する必要があるところです。また、ソフト上でファイルを削除してもweb上ではゴミ箱に入るだけで、しかもゴミ箱も含めてのクラウド容量なので、たまにはブラウザでMendeleyにアクセスしてゴミ箱を空にしないと、ソフト上にファイルがなくても容量オーバーということが起こります。やらかしました。あと最大のマイナス点は、ソフト単体では論文やコメントを他のPCと同期できないところですね。

 

Readcube

良い点としては、タブ機能はついてないものの、複数の論文を同時に開くと左のサイドバーに論文名が見えるところですね。また、ReadCubeのウリの一つになっていますが、ブラウザを開かなくても単体でPubMedGoogle Scholarから論文検索できるのは、面倒くさがりのあなたにピッタリ!

悪い点として、メタデータが取得できないとimporting...で動かなくなることがよくあります。何度これで強制終了させたか… 特に日本語の文献に弱いみたいです。なぜかJournal of Cognitive Neuroscienceでも起こっていましたが。それと、有料版にするとタグ機能が使えるようになるのですが、これがすさまじく当てにならない。タグを指定しても、タグづけた論文が引っかからないだけでなく、タグをつけていない論文が引っかかるし。さらには予測入力もないのでEndNoteと同じく記憶を辿ってタグをつけなければいけませんでした。さらにひどいのは、ネットに繋げないと有料の機能が使えないということです。おそらくアカウントの確認とかするためなのでしょうが、これはひどい。どうにかならないのでしょうか。こちらのソフトも色々試したのですが、前評判と比べるとかなりガッカリ感が多かったのは事実。

 

というわけでそれぞれ一長一短あるのですが、3者を比較してみると、

 

職人気質で機能重視。どのPCでも同じように使いたい→EndNote
主に使うPCは決まっていて、必要な論文をサササッと見つけたい→Mendeley
論文検索もオシャレにね。ブラウザ開くなんてダサいわ→ReadCube

 

という感じではないかと。みなさんはどれに惹かれたでしょうか。

そして私は結局Mendeleyに戻るという…

 

 

音楽の脳科学に関する論文集 vol.73

Frontiersに音楽やダンスも含めたneuroentrainment(神経同調?)のResearch Topicを見つけたのですが、そういえば最近リズム知覚に関わる論文を目にすることが多い気がします。ひょっとして今の流行かなと思うので、「乗るしかない このビッグウェーブに!」ということでリズム関連の論文をダダーッとご紹介。

 

 

まずはこのResearch Topicから、リズム研究に関するレビュー。リズム知覚は聴覚と運動系の協力によって行われるとする仮説がToddさんによって約20年ほど前に主張され、その後の研究によりいくつかの新展開がありましたよ、というお話。なにやら前庭感覚も関わっているらしいという証拠も出てきており、そこも含めた神経基盤を考える必要があるかもしれません。

 

 

猫も杓子も、というほどではありませんが、すっかり有名になったPredictive Coding。これを使って脳内での音楽のリズム構造処理の理論を作ってみたという論文。リズムや拍子知覚の論文レビューもして、それらをこの理論で解釈してみています。

 

 

一定の頻度で繰り返されるリズムを聞いていると、その周波数に対応した脳波のオシレーションが生じるというfrequency-taggingという手法を使って、EEGでリズムや拍子の知覚に関わる脳活動を捉える方法を紹介したレビューです。これの面白いところは、実際に提示されているリズムの周波数だけでなく、知覚されたリズムの周波数についても脳波でオシレーションが見られるという点です。リズムが知覚されるからそういった脳波が生じるのか、それとも逆に脳波が生じるからリズムが知覚されるのか、どちらなのでしょうか。鶏が先か卵が先か…

 

 

テンポよく物事が進むと気持ちいいですが、一定の時間間隔で起こる事象に対して認知的な処理が促進されることが知られています。これは、注意や認知資源といったものが時間的に均等に配分されるのではなく偏りが見られるとdynamic attending theoryによって解釈されています。この論文では、ドラムの音で作ったリズム音列と一緒に画像を規則的に提示して脳波を測定しました。その際に、リズムに合わせて画像を提示した方がリズムに合わないときよりも画像に対するN1がマイナス方向に大きくなり、また画像提示前のβ帯域のオシレーションにも違いが見られました。このことから、刺激提示のタイミングが予想しやすい場合には、その時間に向けて注意や認知資源を集めるといったようなことが脳内で生じているのではないかとのことです

 

 

パーキンソン病神経伝達物質の一つであるドーパミンの減少によって起こると考えられており、手足の震えやこわばり、動作が緩慢になり歩くことも難しくなるといった運動系の症状で知られています。しかし不思議なことに、一定のリズムを聞かせたり、あるいはポインターで足の前を指すなどして誘導すると歩き出せることもあるため、リズムを利用した歩行訓練が行われることがあります。この訓練の効果には個人差があるのですが、リズムに対して同期する能力に個人差があるためではないかというのを調べた論文です。リズムを利用した4週間の歩行訓練の前後で、リズムに合わせて手を叩く課題、リズムに合わせて歩く課題を行ったところ、訓練の効果とこれらの課題成績の間には関連性が見られたようです。

 

 

10人20人の少ないサンプルでちまちまやってんじゃねーよ、と思ったのかどうかわかりませんが、100人を対象としてリズムに合わせて指でのタッピングとbouncing(飛び跳ねるということでしょうか?)の同期精度を測定した実験です。当然指でのタッピングの方が同期の精度は良く、またリズムの分かりやすさと言えると思いますが、beat saliencyが高いほど同期しやすくなりました。14%の人々はどうもこの同期課題が苦手なようでしたが、そうした人たちでも指でのタッピングの方が上手くでき、またsaliencyとの関係も見られました。結果としてはそれほど大した物ではないですが、100人という規模ですからね。物量が説得力となって効いています(笑) 本当は101人でしたが、一人はスクリーニングの段階で音痴と判明したそうで、その人を除いた100人です。繰り返しますが、被験者数が多い。ただそれだけです。

 

 

ということで、リズム知覚に関係したレビューや論文を、基礎から応用までできるだけ幅広く集めてみました。もちろんこれ以外にもたくさんの論文がありますし、今回は心理系の論文には触れていませんがこちらの分野ではさらに多くの論文があるのではないでしょうか。皆様も興味を持たれたらぜひこのビッグウェーブに乗ってみてください(笑)

 

 

 

第40回神経科学学会幕張メッセで20日から行われます。私も21日にポスター発表するので、もしお暇なら見に来ていただければうれしいです。毎回の事ではありますが、人間を相手にした聴覚系の発表は私くらい?でほとんどないので、探せばすぐにわかると思います。もっと増えてくれるといいのになぁ。

 

 

音楽の研究に関わる書籍のご紹介




Natureのwebサイトで音楽関係の本について書かれていたのでご紹介。


著者は英国ローハンプトン大学のアダム・オッケルフォード教授で、音楽教師をしていた彼が出会った自閉症児や盲目の子どもたちの優れた音楽能力と、そうした能力が彼らに備わった理由について音楽理論や心理学、彼の仮説(Zygonic theory)を絡めて書かれているようです。

彼によると、自閉症児や盲目の子どもたちが持つ高い音楽能力は絶対音感によるものが大きいということです。なんでも、西洋人の健常者で絶対音感を持つ人は1万人に1人しかいない一方で、自閉症児では13人に1人(約8%)と急増し、幼い頃から盲目の人たちに至っては約45%の保有率だとか。

本の中身については、音楽の知識があることが前提となっていたり、音楽と言語の関係を指摘しながらAniruddh Patelの有名な本「Music, Language, and the Brain」を1回しか参照していなかったり、Deutschのspeech-to-song illusionについて言及していなかったりと、あまり親切ではないようです。Natureのサイトでこの本を紹介していた人も、対象とする読者層がはっきりしないと書いており、別の本も読むことをお薦めしています。

ちなみに彼は、教え子の一人であるデレク・パラヴィチーニと一緒にTEDx Talksに出演しています。

 


最初に予想したよりもお薦めできる内容ではないっぽいので、おまけとして音楽研究に関わる本をいくつか紹介してお茶を濁すとしましょうか。ずっと前にも紹介したような気もしますが…

 

英語だと以下の3冊でしょうか(ほかにもあるけど読んでないのでわからない…)

 Music, Language, and the Brain

上でも言及されていたPatelさんの本

 

The Cognitive Neurosceince of Music

 音楽の神経科学といえばこちら。研究者なら持っておくべき教科書的な本ですね。なぜかResearchGate経由でダウンロードできるんですが…汗

 

Brain and Music(日本語訳はこちら

 Koelschさんの本。脳波やMEGを使っていて音楽研究に興味があるなら知っておくべきですね。翻訳を手伝った者としてはぜひ日本語版を買ってください(笑)

 

 

 

専門に研究する人でなくてもいけるのではないかと思うのが以下の5冊。

 ピアニストの脳を科学する: 超絶技巧のメカニズム | 古屋 晋一 |本 | 通販 | Amazon

 言わずとしれたベストセラー。こういう話の論文をよく読んでいたので気づかなかったですが、一般向けの本って意外となかったんですね。

 

音楽嗜好症 - 脳神経科医と音楽に憑かれた人々 -

 ご存知の人も多いオリバー・サックス先生が、いつものように患者の話をドヤ顔で語る本です。

 

 英語版を買ってモタモタしていたら翻訳版が出てしまいました。もともと音楽プロデューサーだった人なので、ミュージシャンの名前がけっこう出て来るのですが、あまり詳しくない私にはすごさがよくわからない…

 

「歌」を語る 神経科学から見た音楽・脳・思考・文化 (P-Vine Books) | ダニエル・J・レヴィティン, 山形浩生 |本 | 通販 | Amazon

 同じくLevitinさんによる本。

 

音楽の科学 - 音楽の何に魅せられるのか? -

 気軽に買ったら辞書なみに分厚くて困っています(笑)そのためまだ読んでません…


 

 

音楽の起源や進化といった話に興味があるならこちらを。

歌うネアンデルタール - 音楽と言語から見るヒトの進化 -

Hmmmmmという原始的なコミュニケーションから言語や音楽が進化したという面白い仮説を述べてます。それほど難しい話もなく、面白く読めた記憶があります。また読み返してみようかな。

 

音楽の起源(上)

こちらは2000年に出版されたThe origin of Musicの翻訳。音楽の起源に関わるであろう研究をけっこう広い分野から集めているので、専門知識はけっこう要求されますね。中には無理やり音楽に近づけた感じのものもありますが。翻訳版は上下巻に分かれており、しかも現在まだ下巻は出ていない様子。

本の資料集として出版社のwebサイトが作られており、これがかなり充実してます。

 

 

 

音楽の脳科学に関する論文集 vol.72


先月初めの記事ですが、音楽を聴くときに涙や鳥肌が生じることについて、そのメカニズムの違いを調べた知人の研究がBritish Psychological societyのResearch Digestに紹介されていたのでご紹介を。

 

その論文はこちら。


私達は感極まると鳥肌が立ったり泣き出したりしますが、好きな音楽を聴いていて感動したときにもそうなることはよくあると思います。しかしこれまで、これらの現象は別々の状況で研究されてきました。また、涙については特に悲しい場面で生じる仕組みについての研究が多く、感動の涙というのはあまり検討されてこなかったようです。Scientific Reportに発表された彼らの論文では、音楽を使うことで感動によって生じる涙と鳥肌のメカニズムの直接比較を試みました。

実験では、音楽を聴いて感動したときに鳥肌と涙のどちらが出やすいかによってあらかじめ被験者を2つのグループに分けました。そして心拍・呼吸・発汗量といった生理的な指標を測定する装置をつけたまま、自分がもっとも感動するという種類の音楽を聴いてもらい、そのときの感情の変化、鳥肌や涙が生じたかについてリアルタイムに報告してもらいました。また曲終了後に全体を通して自分の感情評価をvalence(感情価)とarousal(覚醒度)について行い、曲に対してもhappy, sad, calm, fearの4つの点で主観評価を行いました。

生理指標の結果からは、音楽自体の音響的な影響をできるだけ排除しても、クライマックスで鳥肌が出やすい曲では覚醒度の上昇を示す反応が見られた一方、涙が出やすい曲では緊張からの開放を意味する呼吸数の低下や心拍の増加といった反応が見られました。

また、被験者の感情の主観評価については、涙が出やすい曲と鳥肌が出やすい曲の両方でvalenceの評価が高くなりました。Valenceは快-不快という軸で値を見ることが多いですが、この場合はどちらも曲を聞いたことで快の方に気持ちが動いたと見ることができます。しかし曲に対する主観評価では、鳥肌の出る曲をHappyと評価する割合が多かったのに比べ、涙が出る曲をsadとcalmとして評価する割合が高くなりました。

これらの結果からは、音楽で生じる涙と鳥肌は別物であることが示唆されました。また、涙が出る曲ではcalm(穏やか)という評価が高かったことから、音楽で生じる涙は恐怖からくる涙とは違い、緊張からの開放といったcatharsis(浄化)の意味合いを持つということも示唆しています。

 

この論文を紹介したブログでも書かれていますが、実験で用いた音楽は被験者のよく知っているものだったため、曲にまつわる過去の記憶の影響や、日本人を対象としているので文化間での違いというのもあるかもしれません。ただ、これまで感動による鳥肌を調べた研究はいくつかあるものの、感動による涙について調べたものは初めてということで、また新たな感情研究の方向ができたということになるのでしょうか。安直に考えれば、恐怖の涙と感動の涙で関与する脳部位も違ってくるだろうなぁということで、MRIで脳活動を見るという発送が出てきますが、果たして…