90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.73

Frontiersに音楽やダンスも含めたneuroentrainment(神経同調?)のResearch Topicを見つけたのですが、そういえば最近リズム知覚に関わる論文を目にすることが多い気がします。ひょっとして今の流行かなと思うので、「乗るしかない このビッグウェーブに!」ということでリズム関連の論文をダダーッとご紹介。

 

 

まずはこのResearch Topicから、リズム研究に関するレビュー。リズム知覚は聴覚と運動系の協力によって行われるとする仮説がToddさんによって約20年ほど前に主張され、その後の研究によりいくつかの新展開がありましたよ、というお話。なにやら前庭感覚も関わっているらしいという証拠も出てきており、そこも含めた神経基盤を考える必要があるかもしれません。

 

 

猫も杓子も、というほどではありませんが、すっかり有名になったPredictive Coding。これを使って脳内での音楽のリズム構造処理の理論を作ってみたという論文。リズムや拍子知覚の論文レビューもして、それらをこの理論で解釈してみています。

 

 

一定の頻度で繰り返されるリズムを聞いていると、その周波数に対応した脳波のオシレーションが生じるというfrequency-taggingという手法を使って、EEGでリズムや拍子の知覚に関わる脳活動を捉える方法を紹介したレビューです。これの面白いところは、実際に提示されているリズムの周波数だけでなく、知覚されたリズムの周波数についても脳波でオシレーションが見られるという点です。リズムが知覚されるからそういった脳波が生じるのか、それとも逆に脳波が生じるからリズムが知覚されるのか、どちらなのでしょうか。鶏が先か卵が先か…

 

 

テンポよく物事が進むと気持ちいいですが、一定の時間間隔で起こる事象に対して認知的な処理が促進されることが知られています。これは、注意や認知資源といったものが時間的に均等に配分されるのではなく偏りが見られるとdynamic attending theoryによって解釈されています。この論文では、ドラムの音で作ったリズム音列と一緒に画像を規則的に提示して脳波を測定しました。その際に、リズムに合わせて画像を提示した方がリズムに合わないときよりも画像に対するN1がマイナス方向に大きくなり、また画像提示前のβ帯域のオシレーションにも違いが見られました。このことから、刺激提示のタイミングが予想しやすい場合には、その時間に向けて注意や認知資源を集めるといったようなことが脳内で生じているのではないかとのことです

 

 

パーキンソン病神経伝達物質の一つであるドーパミンの減少によって起こると考えられており、手足の震えやこわばり、動作が緩慢になり歩くことも難しくなるといった運動系の症状で知られています。しかし不思議なことに、一定のリズムを聞かせたり、あるいはポインターで足の前を指すなどして誘導すると歩き出せることもあるため、リズムを利用した歩行訓練が行われることがあります。この訓練の効果には個人差があるのですが、リズムに対して同期する能力に個人差があるためではないかというのを調べた論文です。リズムを利用した4週間の歩行訓練の前後で、リズムに合わせて手を叩く課題、リズムに合わせて歩く課題を行ったところ、訓練の効果とこれらの課題成績の間には関連性が見られたようです。

 

 

10人20人の少ないサンプルでちまちまやってんじゃねーよ、と思ったのかどうかわかりませんが、100人を対象としてリズムに合わせて指でのタッピングとbouncing(飛び跳ねるということでしょうか?)の同期精度を測定した実験です。当然指でのタッピングの方が同期の精度は良く、またリズムの分かりやすさと言えると思いますが、beat saliencyが高いほど同期しやすくなりました。14%の人々はどうもこの同期課題が苦手なようでしたが、そうした人たちでも指でのタッピングの方が上手くでき、またsaliencyとの関係も見られました。結果としてはそれほど大した物ではないですが、100人という規模ですからね。物量が説得力となって効いています(笑) 本当は101人でしたが、一人はスクリーニングの段階で音痴と判明したそうで、その人を除いた100人です。繰り返しますが、被験者数が多い。ただそれだけです。

 

 

ということで、リズム知覚に関係したレビューや論文を、基礎から応用までできるだけ幅広く集めてみました。もちろんこれ以外にもたくさんの論文がありますし、今回は心理系の論文には触れていませんがこちらの分野ではさらに多くの論文があるのではないでしょうか。皆様も興味を持たれたらぜひこのビッグウェーブに乗ってみてください(笑)

 

 

 

第40回神経科学学会幕張メッセで20日から行われます。私も21日にポスター発表するので、もしお暇なら見に来ていただければうれしいです。毎回の事ではありますが、人間を相手にした聴覚系の発表は私くらい?でほとんどないので、探せばすぐにわかると思います。もっと増えてくれるといいのになぁ。