音楽の脳科学に関する論文集 vol.51
先週末、所属しているアマチュアオーケストラの演奏会がありました。
マイナーな曲を好んで演奏するという厄介な(笑)オケなので、実際のところ
パッとしない曲なんじゃ、と思っていたのですが、意外にいい曲でした。
演奏は個人的に汗顔ものでしたが…
来週は音楽と脳の勉強会です。今から楽しみです。
Development of auditory-specific brain rhythm in infants.
Eur J Neurosci. 2011 Feb;33(3):521-9. doi: 10.1111/j.1460-9568.2010.07544.x. Epub 2011 Jan 13.
Fujioka T, Mourad N, Trainor LJ.
音楽に関連した論文をコンスタントに発表し続けるTakako Fujiokaさん
ですが、今回は赤ちゃんを対象として、音楽というよりは音の処理過程の
発達について調べた研究です。
聴覚の発達は胎児の頃から始まり、生後6か月ですでに音素やリズム、
ピッチといった特徴の区別ができるそうです。その後12か月くらいまで
には、例えば母国語に含まれない音は認識しないなど複雑な情報処理が
可能になっていきます。
こうした聴覚機能の発達を調べるため、生後4か月と12か月の赤ちゃんを
対象として、EEGを用いて主に側頭葉から自発的な脳活動に対する音刺激
の影響を測定しました。どちらの赤ちゃんでも、4Hz付近の活動に音の影響
が見られましたが、12か月の赤ちゃんになると6Hz付近にも影響が見られる
ようになり、また影響が見られる部位もやや前頭葉に移動していました。
従って、発達に伴い側頭葉だけでなく前頭葉や他の部位も音処理に参加
するようになり、より複雑な情報処理が可能になってくるのだろうという
結論になっています。
ライプツィヒでも、言語の研究で有名なFriederici教授は幼児における
言語発達へと研究の方向を移していっていました。また、同僚によると
これからは研究テーマとして発達が流行るんだそうです。
現に、そっち関係の公募も増えているんだとか。
Differential neural activity during search of specific and general autobiographical memories elicited by musical cues.
Neuropsychologia. 2011 May 8. [Epub ahead of print]
Ford JH, Addis DR, Giovanello KS.
自伝的記憶は3つの異なる記憶に分けられるそうです。一つは「3年前に
東京に住んでいた」といった、ある時間帯における個人的な知識。そして
「4歳の誕生日にぬいぐるみをもらった」といった特定のイベントの記憶、
最後により抽象的なイベントの記憶、の3つです。
こうした記憶を思い出すのに音楽を聴かせるのが有効らしく、この研究では
そうした音楽によってそれぞれの記憶を思い出しているときの脳活動をfMRI
で調べました。
いずれの記憶を思い出しているときも、自伝的記憶に関与しているとされる
ventromedial prefrontal cortexやposterior cingulate、medial
temporal lobeの活動が見られましたが、個人的な知識を思い出しているとき
にはprefrontal cortexの活動が増加したり、特定のイベントの記憶では
medial temporal lobeの活動が増加したりと、記憶の種類によって活動部位
に違いが見られました。
そもそもこれら3つの記憶は本当に違うのか?と思うところなんですが、
気分障害や高齢者といった人々を対象とした研究からは、これらの記憶の
想起しやすさに違いが見られるそうです。結論として、自伝的記憶には
3つの種類があってそれぞれちょっと異なる脳部位が関与している、と
いう事のようです。