音楽の脳科学に関する論文集 vol.50
前回紹介したニュースととても似たネタになっていますが…
Congruence of happy and sad emotion in music and faces modifies cortical audiovisual activation.
Neuroimage. 2011 Feb 14;54(4):2973-82. Epub 2010 Nov 10.
Jeong JW, Diwadkar VA, Chugani CD, Sinsoongsud P, Muzik O, Behen ME, Chugani HT, Chugani DC.
感情の脳内メカニズムについての研究では、怖い顔や笑った顔といった
顔写真を刺激として使う事が多いですが、こうした視覚的な感情刺激と
音楽のような聴覚的な感情刺激がもたらす雰囲気の相互作用を調べた
研究です。
やったことは単純で、顔写真(悲しい顔か楽しい顔)を見せる条件、音楽
(悲しい音楽か楽しい音楽)を聴かせる条件、それらを一緒に提示する
条件で生じる脳活動をfMRIで測定したところ、写真だけを見せる条件では
顔認知に関係しているFusiform Gyrus(FG)が、音楽だけを見せる条件
では音認知に関係するSuperior Temporal Gyrus(STG)の活動が顕著に
見られました。
これらの刺激を組み合わせて提示したところ、楽しい顔と楽しい音楽
のように同じ雰囲気を生じる刺激を組み合わせた場合では、違う雰囲気
の刺激を組み合わせた場合に比べてSTGの活動が大きく見られました。
また、楽しい顔と音楽の組み合わせの方が悲しい顔と音楽よりもSTGの
活動は大きかったそうです。逆に違う雰囲気の刺激を組み合わせた場合
には、同じ雰囲気の刺激よりも大きなFGの活動が見られました。
ということで、感情を引き起こすような視聴覚の刺激において
相互作用が見られましたという話ですが、STGとFGというのが微妙…
もっと前頭葉とか脳幹とかで違いが見られたというのであれば
著者たちもうれしかったのではないでしょうか。
The Music of Your Emotions: Neural Substrates Involved in Detection of Emotional Correspondence between Auditory and Visual Music Actions.
PLoS One. 2011 Apr 29;6(4):e19165.
Petrini K, Crabbe F, Sheridan C, Pollick FE.
こちらも音楽を使って感情における視聴覚の相互作用を調べた研究です。
上のやつよりはもっと音楽的(?)な刺激を使っていて、実際に演奏
している映像と音に対する脳活動をfMRIで測定しました。
Sad, happy, surpriseという3種類の感情的な表現の演奏をしている映像
あるいは音を単独提示したときと視聴覚同時に提示したときの脳活動を
比較すると、単独提示よりも視聴覚提示の方で右側のthalamusとculmenに
大きな活動が見られました。また、視聴覚で表現している感情が異なる
ミスマッチ条件では、同じ感情を表現しているマッチング条件に比べて
両側のinsula、左側のthalamusとputamenに大きな活動が見られました。
視聴覚刺激を同時に提示したときに見られたthalamusやculmenの活動は
言語を用いた研究でも同様に見られていることから、言語と音楽における
共通の処理過程ではないかと言えそうです。また、ミスマッチ条件において
大きな活動が見られた領域も音楽と感情に関連した部位であることを示す
先行研究がいくつかあり、視聴覚における感情的な情報がこれらの部位で
統合されているのだろうと示唆されます。