90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.67

今回からちょっと論文の種類をそろえて、心理・脳機能測定・臨床・その他にカテゴリーを分けてみようと思います。そのうちジャンルに偏りができそうですが。

とりあえず今回は心理系です。

 

 

 

同じ曲でも、声を使って演奏された方が楽器で演奏されるよりも覚えやすいんだそうです。これはふだん声を聴く機会が多くて慣れていることが理由のひとつだとしたら、つねに同じ楽器ばかりを演奏している音楽家では、楽器特異的な覚えやすさというのがあるはずだ、と考えたのがこの研究です。

ピアニスト、ピアノ以外の音楽家、非音楽家を対象として、4つの音色(声、ピアノ、バンジョーマンドリン)で演奏された曲を聴かせ、その後に聴かせた曲との異同判断をしてもらいました。結果、どの被験者群でも声を使った曲の方がほかの音色の曲よりも正答率が高かったものの、ピアニストはピアノ曲の正答率が高いとか楽器特異的な違いは見られませんでした。絶対音感の有無についても関連性を調べたのですが特に違いは見られませんでした。全体的にみると結果は大した事ないものの、声の記憶に見られた優位性については、単純に聴く機会が多いためという接触効果による説明は難しいことから、進化やコミュニケーションなどの観点からの何か特別なメカニズムが隠されているような感じがします。

 

 

 

Sherman SM, Kennerley J.

Deese-Roediger-McDermott (DRM) 課題というのは、虚偽記憶の研究でよく用いられるものだそうです。例えば机とイスが写っている写真を見せて、しばらくしてから何があったかを思い出してもらうと、なかったはずの鉛筆が思い出されたりするというものです。ある特定の状況を強く印象付けるような情報を与えると、その状況にあってもおかしくない別の情報が勝手に記憶に付け加えられる、とでも言いましょうか。むしろややこしくなった?

音楽を使ってこうしたDRM課題を作ったというのがこの研究でしょうか。有名なアーティストの曲名あるいは曲の断片を覚えさせて、それを直後と1週間後に再生させるという課題ですが、この課題のミソはそのアーティストを代表するような有名な曲は刺激として出さないというところです。ちょっとマイナーな曲を選んで覚えさせると、再生してもらったときにそうした曲の想起率は時間とともに減っていきますが、覚えさせていない代表曲を答える割合は逆に増えたそうです。なるほどねぇ。

 

 

 

D'Anselmo A, Giuliani F, Marzoli D, Tommasi L, Brancucci A.

楽譜を見ながら演奏するときのサイモン効果(刺激の方向や位置と反応する手の方向や位置が同じだと、反応が早くなるという現象。例えば右視野に提示された刺激に対しては左手より右手で反応する方が早いとか)を調べたものです(たぶん)。

ピアニストを対象として、タキストスコープ(懐かしい!)を使って弾くべき音/和音を左右別々の視野に音符または言葉で呈示し、キーボードを使って右手や左手あるいは両手で弾いてもらいました。とりあえず期待したサイモン効果は見られたものの、呈示する視野と演奏する手の左右が入り乱れた複雑な結果となっています。さらに片手で弾く場合と両手で弾く場合もあって、交互作用がえらいことになっているので、詳細はアブストを読んでいただきましょう(笑)。ざっくりまとめると、片手で弾く場合には右視野に刺激が提示された方が早く反応できる一方、両手の場合は左視野の方がわりと早いみたいです。細かく見ていくと面白い結果が出ている気はするんですが、ややこしくてどっちがどっちかわからなくなってくる…