90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.52

今回の論文はちょっと変わったものが出揃いました(笑)
最近論文紹介が続いているので、ちょっと息抜きということで。

The cause of P.I. Tchaikovsky's (1840-1893) death: cholera, suicide, or both?
Acta Med Hist Adriat. 2010;8(1):145-72.
Kornhauser P.

チャイコフスキーはロシアの作曲家ですが、交響曲第6番「悲愴」の初演から
9日後に急死したそうです。その死因については、陰謀による自殺の強要とか
コレラによる病死だとか諸説あって、音楽学者のオルロヴァさんは陰謀説を
唱えてますが、よくよく調べてみると生水を飲んだことによるコレラ感染が
死因なのだ、という論文です。モーツァルトの死因についての話は有名ですが
この話は初めて聞きました。

Trumpet with near-perfect harmonicity: design and acoustic results.
J Acoust Soc Am. 2011 Jan;129(1):404-14.
Macaluso CA, Dalmont JP.

ほぼ完璧なトランペットが出来たぞ、という論文です。数学的なモデルを立て、
実際に作って実験を行い、これまでのトランペットよりもharmonicityのブレ
(不勉強のためどういう評価法なのか分かりません…)が少ないぞ、という
ことらしいです。Macaluso Trumpetと書いてあるからどこのメーカーだろうと
思ったら、著者の名前なんですね。


New fast mismatch negativity paradigm for determining the neural prerequisites for musical ability.
Cortex. 2011 May 6. [Epub ahead of print]
Vuust P, Brattico E, Glerean E, Seppa"nen M, Pakarinen S, Tervaniemi M, Na"a"ta"nen R.

被験者の期待から逸脱する刺激、特に聴覚刺激によって生じる特別な脳活動
をミスマッチ反応と呼びます。古典的な方法としては、AとBの2種類の音を
使い、例えばAAA…と連続して聞かせているときに、Aの代わりにBを不定期に
聞かせる課題(オドボール課題と呼びます)によって、側頭葉あたりを主な
発生源とするミスマッチ反応が測定できます。


これは被験者の注意がほかへ向いていても測定できることから、ごく初期の
聴覚情報処理を反映しているとされ、著者の一人Näätänenたちを中心として
様々な実験が行われました。


割と簡単に大きな反応が見られるので、お手軽な実験なのですが、被験者に
予測できないタイミングでB音を聞かせることが大切なので、刺激のムダ打ち
が多いというマイナス面があります。そこでNäätänenらは複数の逸脱刺激を
一度に調べられる課題を開発しました。AAA…の音列にBやCやDや複数の
刺激を入れてしまったわけですが、これでもちゃんとB,C,Dなどに対する
ミスマッチ反応が見られるそうです。


前フリが長かったですが、今回の論文は、この改良版をさらに改良して音楽的な
ものにしたというものです。論文の図1を見てもらえばどんな課題になったかは
一目瞭然なので説明は省きますが(笑)、確かに音楽的な感じになってます。
実験にかかる時間も短縮できて万々歳のようですが、B,C,Dの間で脳活動に
干渉が見られることもある様子。ちょっと注意する必要があるかもしれません。