動き出す超大型プロジェクト。
去年話題になった「30人に30億円」プロジェクト(英語ではFunding Program for
World-Leading Innovative R&D on Science and Technology、略してFIRSTと
呼ぶそうです)がスタートしたようで、たぶんそれに合わせたのだと思いますが、
NatureがEditorialとNewsで日本の研究費について記事を書いています。
Winners take all.
Nature 464, 957-958 (15 April 2010)
In a country such as Japan, where personal loyalties are strong and university pedigrees are often akin to a family bond, objective evaluation of grants can be a challenge.
と冒頭から言われてますが、2009年度の研究予算のうち競争的資金に使われたのは
わずか13.8%で、それでも2002年度(8.9%)よりは多いですが、アメリカと比べて
はるかに少ないようです。
また最近では中国の驚異的な成長などもあって、日本でも競争的資金の割合を
増やそうという方向になり、Center of Excellence (COE) やグローバルCOEなど
億単位のプロジェクトがどんどんと作られ、ついにはFIRSTの登場です。
ただ、このプロジェクトの選考基準は過去の業績に依存しており、選ばれた研究者
はすでに世界トップクラスの人たちで、そこに若手が食い込む隙はありません。
また、金額の大きさにも疑問がつけられており、もっと小額にして「リスクは高いが
当たれば大発見」を研究しているような小さなグループにも分け与えては、と
記事では書かれています。
But the next time the government invests large sums in competitive funding, it should first make sure that the country's basic foundations for science are in good repair ― and that it is truly seeking out the most creative projects. They are not always in the obvious places.
そして記事の最後の段落では、もっと科学における根っこの部分の環境を良くする
ことをまず考えるべきだと述べています。
そしてNewsでは、
Japan rolls out elite science funds
Nature 464, 966-967 (2010)
いよいよFIRSTが始まる、という記事です。記事中では原子の配列を立体的に観察
できる電子顕微鏡を作るプロジェクトで申請した外村彰・日立製作所フェローを中心に、、
採択された研究者たちの状況が書かれています。民主党政権になってから見直しが
行われて予算はだいぶ減額されましたが、もし申請が通らなければ退職することも
考えていた外村フェローは、
But with the money he already has in hand, he has no immediate plans to retire: "I want to create a history-making instrument," he says.
歴史に残るようなすごいものを作ろうと考えているようです。よかったですねぇ。
おりしも今月下旬からは事業仕分けの第2弾が始まりますが、前回の仕分けでは
Spring-8やスパコンへのダメだしについてとても注目が集まりました。
それで思ったのですが、FIRSTのような超大型プロジェクトも事業仕分けのように
どこかの体育館でも使って第三者による公開評価をしたらどうでしょう。
前回の騒動でSpring-8やスパコン業界の事情を初めて知ったという人もいると
思うのですが(はい、私です(汗))、同じように世間の注目が集まって、ひいては
科学技術への関心も高まるかも?また、FIRSTの採択には何やら裏話もあるみたい
ですし、そういう事を防ぐこともできるのではないでしょうか。
みんなの税金を数十億単位で使うわけですから、研究者だけでなく素人の目から
見てもメリットが分かるようなプロジェクトを選ぶ、そういうグラントであってもいい
のではないでしょうか。結果の予想できるようなつまらない研究ばかりになって
しまうかもしれませんが、まあそれはそれとして、そういうものも少しはあっても
いいじゃないですか。