音楽の脳科学に関する論文集 vol.48
1ヶ月以上の休止を経て、ようやくの復活となりました。ばんざーい。
前の記事でも書きましたが、この4月からは京都でまたポスドクをしています。
運良くというか、また音楽認知に関する脳科学的なことを続けられているので、
このブログも懲りずに続けていきたいと思います。さて、復活第一弾はやはり
論文紹介からいきますが、まずは更新を怠っていた間にたまった論文のアラート
からピックアップしていきます。
Music and Autonomic Nervous System (Dys)function.
Music Percept. 2010 Apr;27(4):317-326.
Ellis RJ, Thayer JF.
自律神経系と音楽との関係についてまとめたレビューです。自分で使った事が
ない指標なのでどれだけ信頼性のあるものかよく分かっていないですが、
音楽への感動とドーパミンの関係について以前紹介した論文などのように、
使うべきときに使えば効果バツグンな手法なので、知っておいて損はないと
思います。
このレビューでは先行研究の紹介と共に、心拍数を例に挙げてその有効性に
ついて議論しています。また、多くの論文では平均心拍数をデータとして
使っていますがこの著者はむしろ心拍のばらつきに注目した方がよいのでは
と主張しています。面白いことを言っているような感じなのですが、なんか
読みにくい…
A grammar of action generates predictions in skilled musicians.
Conscious Cogn. 2011 Mar 30. [Epub ahead of print]
Novembre G, Keller PE.
ライプツィヒで音楽関係の仕事をしている研究グループからの論文です。
言語の研究からは、文法処理に対するleft Inferior Frontal Gyrus(IFG)の
関与が知られていますが、音楽でも文法(というか和声構造)処理とIFGの関係
が示されています。そのことからIFGは言語だけでなく日本語で起承転結とでも
呼べるような、一定の決まった展開を持つシークエンス一般の処理を司っている
という可能性が言われています。そこでこの研究では、行動と音楽における
文法的な構造の処理についての相互作用を調べました。
ピアノで和音のシークエンスを弾いている映像を見ながら、それをマネして
早く正確にキーボードを弾くという実験を行ったところ、被験者(ピアニスト)は
和声的に正しい和音の方が間違った和音よりも早くキーボードを弾くことができ、
また和声的に違っているが指使いは正しい場合の方が、妙な指使いで正しい
和音を弾く場合よりも正確に弾けました。この結果は、和音のシークエンスが
持つ構造と一連の指の運動シークエンスの間に相互作用が見られることを
示唆しています。
私が日本に帰る前、NovembreさんとDaniela Sammler博士による関連した
トークがあったのですが、Sammler博士はこれと似た実験で脳波を測定した
結果を報告していました。ミスマッチ反応を使った実験だったのですが、
運動シークエンスを使った実験ではミスマッチ反応は期待していたほど
見られませんでした。本人も「これはまだ予備実験みたいな段階だから…」と
言っていましたが、どう改良していくのか今後の展開が気になるところです。