90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

聴覚野のトノトピーは意外に大雑把かもしれない。

Seeing the Brain Hear Reveals Surprises About How Sound Is Processed
(Science Dailyより)


視覚野では、網膜における視覚刺激の相対的な位置関係が再現されており、
レチノトピーと呼ばれています。


これと同じような概念として聴覚野にもトノトピーというのがあります。
低い周波数によく応答するものから高い周波数によく応答するものまで聴覚野内に
神経細胞が規則的に並んでいる、というもので、周波数マップとも呼ばれます。
一次聴覚野ではこのマップを利用して周波数分析を行う、と考えられています。


ところが記事によると、2光子カルシウムイメージングを使ってマウスの聴覚野を
調べたところ、周波数マップの並びは思ったよりもバラバラだったようです。


これまでの研究の主流は、脳に直接電極を挿して細胞内外の電位変化を捉えるもの
でしたが、技術的な限界からある程度離れた場所の細胞しか測定できませんでした。
これではまるで「アメリカ人とはどういう人間かを友人に教えるために、ニューヨーク
(東海岸)に住む人とカリフォルニア(西海岸)に住む人を紹介するようなものだ」と
研究チームのKanold博士は述べています。

その点、このイメージングは神経活動に伴うカルシウム量の変化を捉えるもので、
一つ一つの細胞を見ることができるほど空間解像度が高く、電気生理より正確な
細胞の分布を見ることができたという事なのですが、周波数マップについては
教科書に載るくらいの話題なので、当然電気生理的な方法で周波数マップを示した
論文もあるわけですが、そこら辺をどうすり合わせるのでしょうか。
全否定というのも乱暴そうですが。


でも、周波数分析をするためには規則的な周波数マップが役立ちそうですが、それを
しないならマップの並びがバラバラでも問題ないような気がします。聴覚野に至る前の
内側膝状体や下丘といった部位でも規則的な周波数マップは報告されているので、
周波数分析についてはそうした下位の領域で終わっているのかもしれません。
聴覚野を破壊しても周波数弁別はできるという報告はいくつかあるので、聴覚野では
もっと別の高次処理が行われている可能性もあるんじゃないでしょうか。