90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.57

みなさまごきげんいかがでしょうか。
長らく更新しておりませんでしたが、先週博多で行われた音楽知覚認知学会の
春季研究会に初めて参加したのを契機に、また書き始めることにしました。
とは言っても、途切れ途切れの更新になると思いますので、また長い目で
見てやってください。


それでは復活第一弾は・・・



Expertise is perceived from both sound and body movement in musical performance.
Hum Mov Sci. 2012 Jun 12. [Epub ahead of print]
Rodger MW, Craig CM, O'Modhrain S.

演奏が上手いか下手かは果たして演奏中の見た目だけでわかるのか、ということ
を調べた研究です。プロ、アマチュア、素人の3種類の人たちがそれぞれ楽器を
演奏している姿をポイントライトアニメーション(体の各部分の位置をドットで表現
したもの)にして音楽経験者と非経験者に見せ、どの人の演奏が上手に見えるかを
聞きました。


結果、演奏を聴かせず動きだけを見せても、やはりプロの方が上手に見えると
いう回答が集まりました。演奏を一緒に聴かせると、当然ですがプロの方が
上手と感じる傾向がより強くなりました。実験2では、映像と音を入れ替えて
ヘタな人の映像とプロの音、あるいはその逆という組み合わせにして同じ実験を
行ったところ、ヘタな音でもプロの演奏する映像が一緒であれば、いくらか
上手に聴こえるという結果になりました。しかし、プロの演奏する音とヘタな
人の映像を組み合わせても、ヘタな演奏が上手く見えるというわけにはいきません
でした。上手な人は視覚的にも上手そうに見えるんですね。




Musical expertise boosts implicit learning of both musical and linguistic structures.
Cereb Cortex. 2011 Oct;21(10):2357-65. Epub 2011 Mar 7.
Francois C, Schön D.

音楽経験によって獲得した能力がそのほかの認知能力の向上にも貢献するのか
を調べた研究です。音楽経験者と非経験者を対象として、人工言語(sungと
書いてありますが、歌詞みたいなものでしょうか?)を学習させたところ、
音楽経験者では言語の音楽的また言語的な構造をよく学習できたことを示す
ERPが見られたとのことです。ですが、行動実験では学習の効果を示せなかった
ようで、それってどうなの・・・?



Musical and linguistic expertise influence pre-attentive and attentive processing of non-speech sounds.
Cortex. 2012 Apr;48(4):447-57. Epub 2010 Nov 27.
Marie C, Kujala T, Besson M.

ふつうアブストラクトは研究の背景を最初に書くものですが、これはいきなり
研究の目的からです。目的は二つあり、一つは言語的な経験が音の前注意的な
処理と注意を向けた場合の処理に与える影響を調べることと、言語的な経験
と音楽的な経験とで与える影響を比較するという、これまで何度もやられた
ような実験をちょっと変わった被験者たちでやりましたという程度のものです。


実験ではフランス人の音楽経験者と非経験者、フィンランド人の非経験者
を対象としました。フィンランド語は音の長さが重要な役割を持っている
そうで、この音の長さを利用したオドボール課題を使って、ミスマッチ反応
を測定しました。当然フィンランド人はこの違いに対して敏感に反応を
示すわけですが、フランス人の音楽家も負けず劣らず敏感だったようです。
比較のためにピッチに対するミスマッチ反応を測定すると、国籍に関係なく
音楽経験の有無による違いしか見られなかったことから、この実験で
得られた音の長さに関する結果は、言語と音楽での共通の処理過程を
反映しているのだろうということらしいです。