90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

はてなダイアリーからはてなブログに移行しました。

どうにも気になっていたので、ダイアリーからブログに移行してみました。

手こずるかと思いきや、クリックひとつで記事のインポートもできて大変楽チン。

 

書くサイクルが短くなるかどうかはわかりませんが、これからもよろしくお願いします。

m(_ _)m

 

 

音楽の脳科学に関する論文集 vol.62


さて今月も文章書き月間でしたが、進捗報告や論文や科研費の申請やら徐々に
終わりが見えてくると気分も楽になってきます。さて今回の論文集は以下の通り。

Med Probl Perform Art. 2013 Sep;28(3):145-51.
Head and shoulder functional changes in flutists.
Teixeira ZL, Lã FM, da Silva AG.


フルートを吹くときの姿勢について、頭や身体の体勢や肩の筋肉の左右バランスを
プロ(10年以上の経験)と修行中(10年以下の経験)のフルーティストで比較した
研究です。修行中のフルーティストの方が頭が前傾姿勢になりがちであるという事
ですが、息を吹き込むときに勢いをつけたりするから?うーん、わかりませんね。


PLoS One. 2013 Sep 4;8(9):e72500.
From understanding to appreciating music cross-culturally.
Fritz TH, Schmude P, Jentschke S, Friederici AD, Koelsch S.


アフリカのカメルーン北部に住むマファという部族の人たちとドイツ人を対象に、
西洋音楽から受ける印象を評定してもらい、文化的な違いを調べたという研究です。
マファの人たちはドイツ人とは異なる印象を受けたようですが、部族内では割と
一致した傾向が見られ、これは文化的な学習の影響ではないかとの事です。


このFritzさんは以前にもマファとドイツの人たちを対象として音楽の感情的な
評価の文化差を調べていますが(これ)、その続きと思われます。
この研究では文化による違いは見られなかったので、音楽には属する文化を越えて
伝わっていく情報と、文化によって受け取り方の違う情報の2種類が存在すると
いう事を示しているのではないでしょうか。


Neurosci Biobehav Rev. 2013 Sep 3. pii: S0149-7634(13)00193-0.[Epub ahead of print]
Into the groove: Can rhythm influence Parkinson's disease?
Nombela C, Hughes LE, Owen AM, Grahn JA.


音楽、特にリズムを聴いているときには、運動野や補足運動野、基底核など色々な
脳部位が活動することが報告されていますが(これとか)、これらの脳部位は
パーキンソン病に関わるとされる部位であったりもします。実際、パーキンソン病
見られる歩行障害にリズム刺激が有効だという日本語のレビューもあり、それを
読んでもいいと思いますが、こちらのレビューでは音楽とパーキンソン病の運動障害
の改善に関連したメカニズムや音楽療法の可能性などについて述べています。


Cortex. 2013 Mar;49(3):702-10. Epub 2012 Feb 10.
The effect of music on corticospinal excitability is related to the perceived emotion: a transcranial magnetic stimulation study.
Giovannelli F, Banfi C, Borgheresi A, Fiori E, Innocenti I, Rossi S, Zaccara G, Viggiano MP, Cincotta M.


ホラー映画を見ているときに驚かされると、普段より余計にビックリしますよね。
こうした感情的な効果が運動野の活動にどのような影響を与えるのかをTMSを使って
調べた研究です。


やってることは単純で、TMSを打つことで筋肉に生じる運動誘発電位(MEP)を測定
しながら怖い音楽や楽しい音楽を聴いたところ、怖い音楽を聴いていた時のMEPだけが
対照条件と比べて大きくなったそうです。恐怖を感じているときにはアドレナリンが
出たりしますが、そうした事が運動野の活動にも影響を与えたりするのでしょうか。




そして前回も紹介しましたが、Hearing Researchという雑誌で特集号が出る様子。
Articles in Pressのところにレビュー論文がざっくざくあります。気の早い人は目を
通してみてはどうでしょうか。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.61

さて、今月は科研費やら論文やら研究費やらで物書き月間です。

Proc Natl Acad Sci USA. 2013 Sep 3. [Epub ahead of print]
Processing of hierarchical syntactic structure in music
Koelsch S, Rohrmeier M, Torrecuso R, Jentschke S.

教授になってからもガンガンと論文を出しているKoelschさんですが、今回の論文
ではバッハのコラールを元にして、これまでやってきた和声進行のミスマッチ反応
(MMN)ではなく、ひとつ上の構造についてのミスマッチ反応をEEGで測定しました。
音楽の用語では前楽節と後楽節と言うのでしょうか?同じような和声進行でも、
前半と後半との関係を変えることで、最後の和音での終止感が変わってきますが、
これによって和声進行のミスマッチ反応と考えられるERANとlate negativeの
波形がどのような影響を受けるかを調べました。


実験の結果からは、コラールをそのまま用いた場合と、前半と後半の局所的な
構造は変えずに調性だけを変えた刺激で、一番最後の和音に対する脳活動が
ちょうどERANやlate negativeの時間帯で異なることが分かりました。
面白いのは音楽経験の有無による違いが見られなかったことで、特別な音楽
訓練を受けていなくても、我々はちゃんと音楽の構造を認識することができる、
ということを示唆しています。


Brain. 2013 Jul;136(Pt 7):2318-22. Epub 2013 Mar 25.
Hallucinations of musical notation.
Sacks O.

著者は、あの「レナードの朝」や「妻を防止と間違えた男」、「火星の人類学者」など
ベストセラーを出している神経内科医のオリバー・サックスです。彼は自身の診察に
訪れた患者をネタに、もとい患者が見せる様々な症状から人間の脳の不思議さを
教えてくれる素敵な方ですよね。(ニコッ


この論文も著者名だけで選んだものですが、音楽に関連した幻覚を訴える8人の
患者のケース報告です。図がひとつもなく、患者の報告とそれに関与する神経
メカニズムの考察だけなのですが、なかなか変わった形の論文ですね。


Hear Res. 2013 Aug 30. pii: S0378-5955(13)00201-3. [Epub ahead of print]
Function and plasticity of the medial olivocochlear system in musicians: A review
Perrot X, Collet L.

音楽経験による脳機能の変化についてのレビューなんですが、この論文の
珍しいところは大脳皮質ではなく脳幹、特に上オリーブ核から蝸牛までの
神経回路に注目しているところ。


人間の脳幹部分の研究はEEGやMEGでは難しく、その大きさからfMRIでも
なかなか見えないところなので、研究が進んでいるとは言えない状況ですが、
先行研究では耳音響放射という現象を用いて、神経核の性質や可塑性について
調べられているものがあるようです。


この論文ではそれらの研究をレビューして、音楽経験の有無によって見られる
違いについて、末梢での可塑性が原因なのか、中枢での変化が反映されて
いるのか議論しているようです。面白そうですね。


そしてHearing Researchでは、いくつか特集号を準備しているようです。
研究室の同僚も聴覚についてのレビューが採択されたようで、もう少しで
読めるようになるでしょう。そしてHPをウロウロしていたら、こんなものを発見。
Auditory Cortex: Current Concepts in Human and Animal Research


興味のある方はどうぞ。

ReadCubeとMendeleyで快適な論文ダウンロード生活。

みなさまお元気でしょうか。こちらは暑さにぐったりしながら生きています。
Twitterをやっていると、いい情報があってもついそちらでつぶやいてしまって、
こちらのブログに書く事がなくなってしまいますね…


さて、今日はそこをなんとかブログに書けるようなネタを見つけてみました。


みなさまは論文をどのように管理しているのでしょうか。
私の希望としては、

  1. 1. 複数の検索サイトを使えること
  2. 2. PDFを簡単にダウンロードできること
  3. 3. PDFをすぐに読めること
  4. 4. タグ管理ができること
  5. 5. 複数のパソコンでPDFや書誌情報を同期できること
  6. 6. 引用文献リストの作成機能がついていること

これらができれば満足なのですが、やはり一つのソフトで全てを満たす
ようなものは見つからず、PubMedで論文を検索して出てくるページ



これをGoogle Chrome用のClearlyというプラグインでEvernoteに送り、
それに論文PDFを添付してノートを作るという方法を使っていました。
これだといちいちPDFを開かなくてもアブストラクトは読めますし、
Evernoteだから複数のパソコンでの同期は問題ないものの、わざわざ
ChromePubMedを開いてEvernoteに保存した後でさらにノートの
名前を変えたり、タグをつけたり、論文PDFを一度デスクトップにダウンロード
してファイル名を変えて、とけっこう手間がかかっていました。


最近になってReadCubeが登場しましたが、レイアウトがおしゃれなので
使ってみました。



これはPubMedだけでなく、Google ScholarやMicrosoft Academic
Searchも検索することができ、また検索結果をリストとして保存したり
PDFがダウンロードできる環境であればワンクリックでダウンロードが
できるという大変便利な機能を持っているのですが、残念ながら引用文献の
リストを作成するための機能がなく、とても惜しい感じでした。


そのため、不便に感じながらも惰性でEvernoteを使っていたのですが、
ReadCubeとMendeleyを組み合わせるというのをこちらの掲示板
発見して試したところ非常に快適だったので、今はもっぱらこちらの
方法を使うようになりました。


方法はサイトを読めばすぐわかるほど簡単ですが、一応説明しますと…

まず普通にMendeleyとReadCubeをインストールして使えるようにします。
ReadCubeではPDFをダウンロードするフォルダを指定できるので、これを
適当な場所に指定します。Mendeleyには特定のフォルダを常に監視して
PDFが保存されたら自動的に登録するというWatch folderという機能があるので、
Mendeleyで「Tool」→「Options」→「Watched Folders」に進んで、



先ほどReadCubeで設定したダウンロードフォルダを指定すれば、ReadCubeで
ダウンロードしたファイルが自動的にMendeleyに登録されます。


さらにMendeleyには、保存したPDFのファイル名を自動で変更するという
機能があります。Mendeleyで「Tool」→「Options」→「File Organizer」
に進んで…


これらを設定した後で、ReadCubeの方でダウンロードしたPDFの
保存場所をMendeleyでWatched folderに設定したフォルダにすれば、
ReadCubeでPDFをダウンロードするだけで、論文PDFが書誌情報付きで
勝手にMendeleyに登録されて、PDFファイルの名前も勝手に変えてくれる
という事になります。


これだけでも便利になったものですが、次は複数のパソコンでMendeleyを
同じように使いたくなりますよね?


Mendeleyは別のパソコンからもPDFにアクセスできるようオンライン上に
ファイル保存用スペースが用意されていますが、現在容量は2GBしか
ないようです。また、PDFは共有できるものの、Mendeley自体は個々の
パソコン上で動いています。これを、もっと容量の大きいストレージに
PDFを保存して、さらに複数のパソコンでMendeleyの共有ができないかと
調べてみたら、いくつか方法が見つかりました。


ひとつ問題点として、Mendeleyでは実際のPDFと書誌情報などが書かれた
メタファイルが別の場所で保存されるらしく、両方が共有されるようにしないと
いけないようです。


これをするためには、任意のフォルダを共有できるSugarSyncが便利です。
SugarSyncを使った方法はこちらのサイトに書かれていますが、簡単に
説明すると…


PDFファイルはSugarSyncで共有するフォルダにいれて、Mendeleyの方で
「Tool」→「Options」→「File Organizer」に進み、「Organize my files」に
チェックを入れてこのフォルダを指定すればOK。メタファイルは、Windows7なら
C:\ユーザー\"ユーザー名"\AppData\Local\MendeleyLtdに入っているので、
このフォルダもSugarSyncで共有する設定にすればOKです。



上の画像でも「SugarSync」(PDFのフォルダ)と一緒に「Mendeley Ltd」が
共有されているのが分かると思います。


ただこの「Mendeley Ltd」というフォルダはMendeleyをインストールすると
必ずパソコンに作られるので、ホスト側とクライアント側でMendeleyの設定が
違っていたりすると面倒くさいことになるかもしれません。、


SugarSyncは共有するフォルダを自由に選択できるのでこの方法でOKですが、
DropBoxを使った方法についてもこんなサイトがあります。
ちょっと面倒くさいような(汗)




(追記)
SugarSyncを使って快適ダウンロード生活!と調子にのって色々使っていたら
あっという間にSugarSyncの容量が限界に来てしまいました…


それなので、今度はメタファイルだけSugarSyncで共有して、PDF自体は
SkyDriveを使って共有しようとしているのですが、なぜかMendeleyが
強制終了して再起動しなくなったり、再インストールしても起動しなかったりと
苦戦中です。もしうまくいくようになったらまたブログで報告するかもしれません…

音楽の脳科学に関する論文集 vol.60

さて…


かなり久しぶりとなりましたが、私は元気でやっております。
所属していたプロジェクトが残念ながら解散が決まり、ブログなんて
書いている場合じゃないーと公募に出したり論文書いたりしていました。
3月まで次の職場が決まらずかなり緊迫した状況でしたが、結局は共同研究
でお世話になっていた京都の研究室に残ることになりホッとしています。


またここも2年後にはどうなっているか分からんのですが…(汗)


とりあえず時間のある時にはこのブログも進めていこうと思います。
というわけで、まずはリハビリとして音楽関係の特集号が組まれていたので
それをご紹介。


Topics in Cognitive Scienceという雑誌で、Trends in Cognitive Sciences
という超有名な雑誌と間違えそうな名前ですが、昨年の冬に音楽関係の特集号を
組んでいました。developmentやcomputational model、cross-cultureといった
観点もあり、ちょっと広い分野からの論文が集まっている気がします。



Topics in Cognitive Science
October 2012 Volume 4, Issue 4, Pages 467–794

Editors’ Introduction: Music Cognition and the Cognitive Sciences
Music Cognition and the Cognitive Sciences (pages 468–484)
Marcus Pearce and Martin Rohrmeier


Development and Evolution
Music Cognition: A Developmental Perspective (pages 485–497)
Stephanie M. Stalinski and E. Glenn Schellenberg

Musicality: Instinct or Acquired Skill? (pages 498–512)
Gary F. Marcus

Cognition and the Evolution of Music: Pitfalls and Prospects (pages 513–524)
Henkjan Honing and Annemie Ploeger


Learning and Processing
Implicit Learning and Acquisition of Music (pages 525–553)
Martin Rohrmeier and Patrick Rebuschat

Learning and Liking of Melody and Harmony: Further Studies in Artificial Grammar Learning (pages 554–567)
Psyche Loui

Music and Language Perception: Expectations, Structural Integration, and Cognitive Sequencing (pages 568–584)
Barbara Tillmann

Neural Mechanisms of Rhythm Perception: Current Findings and Future Perspectives (pages 585–606)
Jessica A. Grahn


Computational Modeling
Modeling Listeners’ Emotional Response to Music (pages 607–624)
Tuomas Eerola

Auditory Expectation: The Information Dynamics of Music Perception and Cognition (pages 625–652)
Marcus T. Pearce and Geraint A. Wiggins


Cross-cultural Perspectives
Music Perception and Cognition: A Review of Recent Cross-Cultural Research (pages 653–667)
Catherine J. Stevens

Cognitive Science and the Cultural Nature of Music (pages 668–677)
Ian Cross


Conclusion
Two Challenges in Cognitive Musicology (pages 678–684)
David Huron


もうひとつ違うテーマでいくつか論文が特集されていましたが、これは音楽とは
関係なさそうなので割愛しました。


さて次回はこの特集の最後にあるHuronさんの論文でもレビューしようかな、と
思いながらTrends in Cognitive Sciencesのサイトを見たらNeurochemistry of Music(PDF)というレビューが出ているではないですか。
こっちの方が面白いかなぁ。