90番目の夜

音楽と脳の研究紹介や、文献管理ソフトの人柱報告などしています。

音楽の脳科学に関する論文集 vol.66

科研費のシーズンですね…の次に書くのもなんですが、科研費落ちまして…

全然やり始めのテーマだったので業績がなく、無理かなと思ってはいたものの

痛いですよね。次回はこれまでやってきたテーマで出そうと。

 

さて、3月4月で急にReadCubeとMendeleyを使った文献管理についての

ページへのアクセスが増えたみたいで、3月は1000PVあったようです。

普段は10とか多くても100行かないくらいなのに、えらいこっちゃ。

 

 

[PDF]

ピッチの記憶に関する左半球のSuperior Marginal Gyrus (SMG)の関与を調べた研究です。被験者に2音の異同判断課題を行わせ、最初の音の記憶中(encoding)または2秒間の保持中(retention)にTMS刺激をしたところ、保持中に刺激をした方で再認にかかる時間が伸びたという結果です。正答率には有意な違いは見られなかった模様。

TMSは割と音がするので、保持中に聞こえたらdistractorとして働いてしまうんじゃないかな…



 

 

 

 

人工内耳をつけても、音が持つ様々な情報のうちわずかしか得られないそうですが、それなら人工内耳をつけた子供は音楽の感情的な情報をちゃんと受け取ってるんだろうか、ということを調べた研究です。楽しい音楽(happy)と悲しい音楽(sad)の区別がどれだけ正確にできるのかを弁別させたところ、9割近くの正答率だったものの、健常者の子供よりは有意に低いものでした。

音楽の楽しい/悲しいを決める要因として、mode(旋法?調性?)とテンポがあるそうなのですが、これらを色々変えてみたところ、健常者ではmodeにより注目している一方で、人工内耳をつけた子供はテンポに注目する傾向が見られました。また、全般的に人工内耳をつけた子供の方が判断に時間がかかり、これは彼らにとって課題がより難しいことを意味し、ひょっとしたら健常者とは異なる方略を用いているのではないか?とのことです。

 

 

 




バイオリン協奏曲のソリストって、やたら動く人いますよね。五嶋みどりもそうかな。何が彼女にそうさせるのでしょうか。何か伝えたい事があるんだろうと思いますが、果たしてそれは聴衆に伝わっているのでしょうか。

この研究では、演奏行動と聴取者による演奏の表現性の知覚について、一人の演奏者がソロで弾いているのかアンサンブルの中で弾いているのかを、共演者が映らないように編集した映像を使って判断させるという課題を使って調べました。

楽経験者と非経験者を対象として判断させたところ、当然でしょうが音楽経験者の方が正答率は高くなりました。また、実際の映像から点と線だけで動きを代用する映像を作り、それを見せると、これも当然でしょうが、実際の映像の方が正答率は高くなりました。面白いのは、特に音楽経験者において、見た映像がアンサンブルの映像だと信じている場合に、その演奏に対する感情的な表現性の評価が高くなるということが示されました。このことから、音楽における表現性の評価は、音楽経験とともに自分が受け取った社会的な文脈(この場合はソロだと思うかあるいはアンサンブルだと思うか)に影響されるということを述べています。

 

 

 

 

しばらく触っていない間にちょっとブログの編集画面が変わりました。それで色々触っていて気付いたんですが、論文紹介のときに個々の論文に対してタグをつけられると便利そうですね。「心理学」とか「臨床」とか、せめてジャンル分けくらいできると論文探すときに便利かも。記事ごとにジャンルを決めて、そのジャンルでカテゴリー分けすればいいのか。面倒くさいけど…(汗)ちょっと考えてみましょう。

 

 

 

音楽の脳科学に関する論文集 vol.65

科研費のシーズンですね。私も今年は本気で取り組まないと・・・

 

Frontiers in Human Neuroscience 2014 Sep 3;8:694.(Free access)

New learning of music afetr bilateral medial temporal lobe damage: evidence from an amnestic patient

Valtonen J, Gregory E, Landau B, McCloskey M.

 海馬は記憶の座として有名ですが、海馬の損傷によって健忘症となり、新しい物事の記憶が難しくなる一方で、単純な動作を覚えたりすることは大丈夫だそうです。それでは楽器の演奏は覚えられるのか?ということで、海馬がほぼ完全に切除されたアマチュアのバイオリニストを対象にして、新しい曲を練習してもらったというケーススタディです。

 

ケーススタディなので結果もあっさりとしていますが、結論を言えば新しい曲を弾けるようになったそうです。面白いのは、同じ曲を何度も練習している事を患者さん自身は覚えていないというところですね。海馬損傷でも単純な動作が覚えられるというのは先行研究でも報告されていますが、今回の結果は、複雑な運動学習でも海馬に依存しない形で記憶される、という大変面白い可能性を示唆しています。


 

Frontiers in System Neuroscience 2014 Aug 28;8:149.(Free access)

Is there a tape recorder in your head? How the brain stores and retrieves musical melodies

Rauschecker JP.

 脳がどのようにして音楽を保持しているのか、ということについての論文というか仮説の表明みたいなものです。サルの電気生理で大御所のRauschecker教授が書かれていますが、テープレコーダーの仕組みについて段落を一つ設けて説明していたり、それがWikipediaからの引用だったりと、ふだん読むような論文とは一味違いますw

 

イメージングの研究からは、premotor cortexを含むdorsal streamに音楽が保存されているんじゃないか、という証拠が示されているのですが、サルではここら辺の部位が運動学習に関連しているので、おそらく音楽は運動情報に変換されているのではあるまいか?、というアブストラクトだけを読むとハテナマークが浮かんでくるような話です。真面目に本文を読めば面白いのかもしれませんが…

 

 

J Neonatal Perinatal Med 2013 Jan 1;6(4):295-301 

Effect of lullaby and classical music on physiologic stability of hospitalized preterm infants: a randomized trial

Amini E, Rafiei P, Zarei K, Gohari M, Hamidi M.

 

 癒やしとしての音楽は色々なところで使われていますが、早産の赤ちゃんに対してはどうかというのを、子守唄とクラシック音楽で調べた研究です。1000~2500gの小さな赤ちゃんに対して子守唄、クラシック音楽、音楽なしを2日間ずつ経験させて、その間の心拍、呼吸数、血中の酸素濃度を比較しました。子守唄を聴かせると心拍・呼吸数ともに有意に低下し、これらは音楽を止めても低下が続きました。一方、クラシック音楽でも心拍数の低下は見られたのですが、音楽を止めると有意差はなくなりました。これらの結果は、音楽を聴かせることで赤ちゃんのストレスを軽減することができるということを示唆しています。

 

どんなクラシック音楽を使ったのかは本文を読まないと分かりませんが、子守唄の方が効果が長続きしたというのは面白いですね。

 

 

ご無沙汰でした。

今年の神経科学学会も無事終わり、発表も終わったことでまた書けるときに

書いていこうかなと。

 

今日は音楽心理学系の雑誌Music Perceptionからの特別号のお知らせです。

 

1990年にBregmanの「Auditory scene analysis」、Krumhanslの「The cognitive foundation of musical pitch」、Narmourの「The analysis and cognition of basic melodic structures」という3冊の名著が出版されてから今年で25年が経つことを記念して、7月にモントリオールで2日間のシンポジウムが行われました。その記念行事の一環として、Music Perceptionでは来年6月を出版のめどとして特別号を組むようです。原稿の提出締切は来月の頭ですが…

 

Music Perceptionは脳活動を見たという論文はあまりない印象ですが、たまたまリジェクトされた論文を持ってる!など原稿があって、かつ興味のある方は狙ってみてはどうでしょうかw

 

 (3冊のうちBregmanの本しか知らないなんて言えない…)

 

 

帰ってきた人柱的文献管理ソフト探索紀行 vol.1

ネタに困った、もとい新しい文献管理ソフトを見つけるたびに

試してみるこの企画。

 

今回はオンラインデータベースとして有名なProquestCentralを

管理するProquest社が無料で提供する、ブラウザ上で文献情報を

管理するツールFlowのご紹介。

 

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データベースなんかを管理する会社が作ったものだから何か特別な

ツールだったり、便利な機能がついているんだろうなーと思いながら

特徴を見てみると、

  1. データベースやWebサイトからワンクリックで文献のメタデータやフルテキストが取得できる!
  2. 集めたデータは最大10人まで無料で共有できる!
  3. 内臓のリーダーで読んだりコメント書いたりできる!
  4. 学術機関からの登録なら無料で使える!
  5. マイクロソフトのWordでプラグインとして導入すれば引用文献リストが簡単に作れる!

などなど、素晴らしい事ばかりが書いてあるではないですか。

(どれもMendeleyで出来る事じゃんとかは言わない)

 

それではと思いさっそくアクセスしたところ、

 

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 「まずは、お前の所属する組織が我々のツールを使うのにふさわしいか

検討させてもらうぞ(意訳)」という画面が出てきて、公的なメールアドレス

を記入せよとの指示(Yahoo!のアドレスを入れたらダメでした…)。

 

これをやらないと次に進まないので、仕方なく大学のメールアドレスを

入力すると、

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まだ使えないぞと表示されました。(えーっ!?)

確認するのでしばし待てという事なので、これで1日目は終了。

 

その後待てど暮らせど何も音沙汰がなく、3週間が過ぎてもはや忘れかけて

いたころに「お前の組織は我が傘下にあるようだ(意訳)」との連絡を受け、

ようやくアカウントを作る事ができるようになりました。

 

アカウントの設定に入ると、ここでも「お前の所属を入力せよ(意訳)」とか、

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ブックマークレットを入れよ(意訳)」とか、

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「これまで使っていた文献管理ツールからお前のデータをよこせ(意訳)」とか、

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まるで注文の多い料理店

 

それにヘイヘイと従ってとりあえず今使っているMendeleyからデータを

インポートしてみる事に。RefWorks, Mendeley, Zotero(もうひとつくらい

あったはず)を使っている人なら、文献データをインポートできます。

操作自体は簡単で、上の写真にあるようにソフトを選んで「Import」を

クリックすると自動的にインポートされます。

すると読み込みが始まります。

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このように無事読み込み成功。これは便利……と思っていたら、

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写真の右側に出ているプログレスバーがいつまでたってもこのまま。

10分ほど待っても変化なしだったのでこの日はここであきらめて終了。

 

そして数日後に再度アクセスすると、プログレスバーは消えてましたが、

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論文のメタデータはインポートされていたものの、論文のPDFはインポート

されていませんでした。そこで個々の文献をクリックすると文献情報が

右側に出てきて、

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右上に論文PDFをドラッグ&ドロップできるスペースが出てきます。

そこにPDFを持ってくるか、あるいはファイルダイアログを出して

PDFのあるフォルダからファイルを選択する事ができます。

 

PDFを選んだ後はアップロードが始まり、無事Flow上でPDFを読む事が

出来るようになりましたー!

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 ?

 

何か表示が変だぞ??

 

 やけに文字間が狭い……

 

イントロに使われているフォントが違う……

 

 うーん、なんだかなぁ。

 

ほかのPDFもアップロードしてみると、これもタイトルや小見出し

文字がヘンになっているし。

 

結局このPDFを見たときに、「あー、これはダメなやつだ」と判断して

もうやめました。ここに来るまでにアカウント取得などで散々焦らされて

いた事もあったので正直面倒くさくなりました。

 

でも、PCに何もインストールする事なくすべてブラウザ上で出来ると

いうのは評価できますし、アップロードできる容量が2GBあり、また

Dropboxと連携できるので、PDFをDropboxに入れればもう少し容量に

余裕が出来て、かつインターネットにつながっていない時でも(たぶん)

使えるようです。

 

興味がある方は使ってみてもいいかもしれませんよ。

 私はMendeleyを使いますがね ( ー`дー´)キリッ

 

音楽の脳科学に関する論文集 vol.64

 

The relationship between the age of onset of musical training and rhythm synchronization performance: validation of sensitive period effects

Bailey JA, Penhune VB.

Front Neurosci. 2013 Nov 29;7:227. [Free Access]

 

子どもの能力の発達に重要な時期というのはあるようで、絶対音感などは

できるだけ早く音楽訓練を受けないと身に付かないと巷では言われています。

Penhuneさんのラボでは、こうした音楽能力発達におけるいわゆる臨界期の

存在を、音楽訓練を受けている子供たちと受けていない子供たちの能力を比較

することで調べてきました。この論文は、リズムに合わせる能力について

音楽訓練を始めた時期の影響を調べたものです。

 

実験は単純にリズムパターンに合わせてキーを押すというもので、18歳から

37歳までの音楽経験者を対象として実験を行い、リズムとキー押しとの時間的

ずれ幅と音楽訓練を始めた時期との相関を見たところ、より幼いうちに音楽

訓練を始めた人の方がより正確にリズムに合わせることができた、というもので

やはり早いうちから音楽訓練を始めた方がいいよねという結論です。

 

ま、そうだよねー、ありがちな結果だよねー…と思ってみたら、音楽訓練を

始めた年齢とリズムに合わせる正確さには弱い相関しか見られず、むしろ

ワーキングメモリとリズムの正確さの方が相関が強いというものでした。

個人的にはかなり今イチな結果で面白くもない論文ですが、これは音楽訓練

によって広範な認知機能が向上するということなのか…とすれば個別の能力

について音楽訓練の影響を調べても、あまり意味がないのかもしれません。

 

 

Amusic does not mean unmusical: Beat perception and synchronization ability despite pitch deafness

Phillips-Silver J, Toiviainen P, Gosselin N, Peretz I.

Cogn Neuropsychol. 2013 Jul;30(5):311-31.

 

Peretz御大のところからの論文です。という事は?そう失音楽症(Amusia)です。

以前にも紹介していますが(こちらこちら)、失音楽症ではピッチの処理が

良くできないという報告がよく見られる一方、リズムや音色といった他の特徴は

処理は無事なのかという事が議論されています。というのも、ピッチとリズムは

脳の中で異なる部位が関与するという報告が多くあり(これとかこれとか)、

これらの特徴のどれが失音楽症によって障害されているかを調べることで、

音楽的な特徴が脳内でどのような処理過程を経るのかという事がわかる!…はず。

 

この論文では3つの実験を行って、失音楽症の患者でも音色の区別がつくこと、

リズムの解釈に身体の動き(ダンスとか?)が影響を与えること、音楽に

合わせてリズムを取れることと練習によって向上する事が示され、ピッチに

ついては失音楽でもリズムについてはそうでもない事が示唆されました。

 

失音楽症を引き起こす脳の障害、あるいは失音楽症に関連した脳部位があるか

どうかはちょっと不勉強で知らないのですが(こんな論文はありますが)、

健常者と患者の比較によって音楽処理(少なくともピッチ処理)に関連した

脳内ネットワークが明らかになる日も来るかもしれませんね。

 

Enhanced syllable discrimination thresholds in musicians

Zuk J, Ozernov-Palchik O, Kim H, Lakshminarayanan K, Gabrieli JD, Tallal P, Gaab N.

PLoS One. 2013 Dec 5;8(12):e80546. [Free Access]

 

最初に紹介した論文と似たもので、音楽訓練の効果が同じ音響的特徴を多く含む

言語音の処理に影響を与えるのかを調べた論文です。ま、結果もありがちな

感じで、有声開始時間(Voice Onset Time: VOT)や大きさなどをいじった言語音の

弁別において音楽経験の効果が見られ、音楽経験によって音響的な刺激の時間

情報について感受性が増すのではないかという事です。

 

さもありなん、という感じで。